1.世の中の流れに全てを委ねてみるべき時

今、企業社会は《働き方改革》や《ハラスメント対策》で、騒然となりつつあると言えるかも知れません。もちろん、冷めた企業も少なくありませんが、それは《社会変化に付いて行けない》姿だとも言えそうなのです。
社会保険労務士事務所の中にも、こうした現代課題を、数ある人事労務課題の中の一テーマに過ぎないと捉え、それ程熱を入れられてはいないケースも、まだ見られるようです。
しかし、この《現代課題》の奥行は、驚くほど深いのです。

2.パワハラ対策でさえ経営の根源を大変革

たとえばパワハラ対策は、今のところ研修を通じて『皆で法対応の具体的方法考えて行きましょう』という段階にあるかも知れません。しかし、正面から法対応に取り組むなら、これまでの経営法や部下の指導法が、根本的に変わらざるを得なくなるのです。
なぜなら、今まで現場では『何度言ったら分かるんだ』とか『そんなことをしていたら、この仕事を続けられないぞ』という《威圧的》な指導以外に、組織を鼓舞する方法を知らなかったとさえ言えるからです。
部下に危機感を持たせて成長させようとした時、『それパワハラですよ』と言われたら、上司や経営者は、いったいどうするのでしょうか。

3.トップや幹部が部下を指導できなくなる

それは、時間外労働時間の上限規制でも同一労働同一賃金でも、あるいは女性の起用促進でも出て来る問題になるはずです。組織内での変更には、それがどんなに小さくても、構成員を《納得》させる指導力が求められるからです。
ところが今、ほとんどの企業で《叱咤激励的な指揮命令に代わる指導法への移行》に、真剣には取り組めていない懸念が残るのです。そのため、まだ新たな指導力への意識を持ち得ていない経営者は、早晩組織マネジメントに行き詰まることになりそうなのです。
《その時》に備える姿勢を持つだけでも、社会保険労務士事務所の《新規開拓》は比較的スムーズに進むかも知れません。ただし、その備え方には注意が必要です。

4.顧客を独占する体制の崩壊が多発の傾向

以前の私たちは、どちらかと言えば《オールインワン》とか《ワンストップ》を好む傾向があったと思います。パソコンもオールインワンの方が使いやすいと感じましたし、社外に業務を依頼するなら、何でも窓口になって引き受けてくれるワンストップ体制が、便利で安心できたからです。
ところが今日では、ノートパソコンを買った時でさえも、モニターやキーボードは外付けで別のメーカーから買うのが当たり前になって来ました。なぜなら、メーカーにも得意と不得意があるとともに、顧客が《自分の用途にかなったもの》を個々に選ぶようになったからです。
技術の急速な進歩が、既に特定メーカーの顧客独占体制を壊しているのです。

5.高度専門サービス業では《どう》か…?

社会保険労務士事務所のような高度専門サービス業でも同様でしょう。システム化やネット情報等が進化して顧客の《視野》が広がると、ワンストップよりも《自社に役立つサービスを個別に探す》ようになるからです。
それは必然的に、まず顧問契約を結び、その中で現代的な諸問題に取り組もうとする姿勢に、警笛を鳴らし始めているとも言えるのです。分かりやすい個別課題を取り上げて、法的対応のみならず《経営の根幹》の課題に集中するアプローチの方が、センセーショナルで強いからに他なりません。

6.個々の業務提供と経営視点拡張との両立

さて、《働き方改革》や《ハラスメント対策》で、当面の法律対応を果たした後も、社会保険労務士事務所の専門サービスは提供し続けられるのでしょうか。それは、経営者への《動機付け》次第だと思います。
経営者が社会保険労務士事務所を、単に《法的対応の窓口》と捉えるのではなく、組織経営の支援者だと感じるなら、法律対応は《とりあえずの入り口》に過ぎないことになるからです。
こうして、まず《法対応の支援》をし、その後《組織経営の根幹》に横たわる《人事労務課題》に関して継続支援する…、そんなチャンスが今、当面の課題で経営陣をどう動機付けるかで、実現を待っている時だと言えるのです。

7.現代課題はピンポイント化で効果を発揮

ただし、その際の動機付けも、ピンポイントから入る必要があります。例えば《パワハラ対策》のようなピンポイントテーマからでも、就業規則改正のみならず、人材活用の見直しや、業務指導の訓練、あるいは人事評価制度の抜本的見直し等、組織マネジメントの深部へと進み得ることは、既に申し上げた通りです。
更に、例えば『働き方改革への対応のための給与体系再設計』のような提案コンセプトでも、分かりやすい入り口と奥深いテーマを作り得るのです。
逆に、入り口と奥行の発想を軽視すると、事務所の競争力が高まらないかも知れません。

8.このコーナーの狙いは…?

このコーナーの狙いは、以上のように、社会感覚あるいはビジネス感覚の変化に合わせながら、新たな関与先や顧客先を獲得する方法を、ご一緒に考えることにあります。もちろん、今はまだ移行期ですから、新規顧問先開拓に関しても、給与計算代行や労務顧問等の《従来型の提案課題》で、新たな可能性を追求することも、決して忘れるべきではありません。
しかし、少し着眼点を変えるだけで、社会保険労務士事務所の既存の見識で、中堅中小企業の組織力が甦る可能性も、急速に濃厚になりつつあると申し上げたいのです。
なお、ピンポイント契約が成立した先や、既存の顧問先や関与先との関係で、《新たな提案チャンス》を探し出すテーマは、《収益源発掘》コーナーの中でも取り上げています。また、新規先開拓法の1つとしての《セミナー実践》にも、ご注目下さい。