経営計画と言うと、事業全体の先行きを見通すもので、その《まとめ》を損益計算書や貸借対照表で表すため、普通は会計事務所の専業支援テーマだと捉えられます。しかし、会社全体を財務諸表とは別の角度から捉える経営計画もあり得るのです。特に《人事労務》の立ち位置から見る経営計画は、中堅中小企業にとって、今後益々重要になって行くでしょう。

1.中堅中小企業に必要な計画マインドは?

伝統的な経営計画の在り方はさておき、中堅中小企業では《今後》、現体制での《持ち応えプラン》とでも呼ぶべき計画発想の重要性が、益々強くなると思います。それは文字通り、今の陣容で、今後どこまで現事業を継続できるかという見通しです。
人は容易に増やせませんし、増やしたからと言って、すぐに会社の能力が上がるわけでもありません。逆に、不適切な人を採用して、会社の業績も組織の雰囲気も悪化してしまうこともあり得るのです。

2.本来は《何とかしよう》とするのが計画

そのため『人が足りない』として先を急ぐ前に、『現体制で何とか対応できないか』と考えてみることが肝要になります。それは、中核的な人材の退職が予定されている場合でも同様です。それが中核的な人材であればあるほど《代わりはなかなか現れない》のが普通ですから、『残された陣容でどこまでできるか』の見極めが大事になるわけです。
ただ経営者は普通、これを《経営計画》とは呼びません。なぜなのでしょうか?

3.中堅中小企業が経営計画に無関心な背景

それは一般に、経営計画が暗黙裡に、経営革新や事業戦略を練り上げるもので、『今いる人でできることを考える』等という《スマートさ?に欠ける思考》のためにあるのではないとされて来たからでしょう。経営計画には《華やかな戦略や方針》がなければならないようなのです。
しかし、その華やかさは、上場企業が株主や大勢の従業員に見せるために必要なものであり、必ずしも現実的な必要性にこたえるものではありません。だからこそ、未上場企業の経営では、株式公開を狙わない限り、経営計画は縁遠いものだったと言えそうなのです。その事情が今、一変し始めました。

4.必ずしも先行きが深刻だとは限らない!

単なる《人員不足や高齢化への対応》だけなら、陣容縮小の中でも『残された我々で、何とかしようじゃないか、な、みんな!』という社長の呼びかけで、今後も《何とかなる》企業は少なくないかも知れません。
しかし、今、デジタル技術の動向は、つい最近までの《夢の領域》をはるかにしのぐほどに高度化して来ています。また、対等の立場で複数の企業が一つのネットワークを作る形で、新たな事業チャンスを模索するような分野でも、企業の意識や顧客の感覚は非常に柔軟化しているのです。
更には、高度な技能を持つ《フリーランス》の急増も、中堅中小企業には大きな《人的資源の代替》になり得るでしょう。
今《社内の鼓舞》だけではなく、社外やヒト以外の《ヒト代替資源》に目を向けるべき時なのです。

5.どんな計画からスタートすべきなのか?

このように《風呂敷》を広げてしまいますと、経営計画作りが、益々面倒な作業に見えてしまいそうです。しかし、そのスタートポイントは、非常にシンプルなのです。もちろん簡単ではありませんが、そこにあるのは《分かりやすい課題》だということです。
なぜなら、社外資源であれデジタル資源であれ、あるいは社内の生産や業務ラインの再構築であれ、真っ先に必要になるのは『取り組みに至るまでの入門勉強』だからです。私たちの社会には、高齢に達してからプログラミングを習得する人もいます。ネット通信で、遠方や海外の企業との連携をとる経営者もいます。
しかし、その最初の一歩は、いずれも《入門勉強》あるいは《入門体験》なのです。

6.時間や元気の不足は言い訳にはならない

『いやあ、新しいことを学ぶ元気はない』という経営者でも、先行きの絶望感が現実化すると、そうも言っていられなくなるでしょう。また『従業員が就業時間中に勉強するなど、もっての他だ』と断じる人でも、今の見識や技能では取引先との提携もできなくなると痛感する時、考え方を変えるはずです。
そこまで待たなくても、事例で危機を疑似体験する時、変革期の《学び》は日常業務の手を止めてでも取り組まなければならないと感じ始める方が、むしろ自然でしょう。

7.今後どうなるのか、そして何が必要か?

そのため、ヒトから始まる経営計画は、経営陣が《今後社内体制がどうなるのか》を考えるとことから始まります。世の中の動きが全く読めなくても、『自社の従業員は毎年1歳ずつ確実に歳を取る』という現実は分かるはずです。高齢化して行く組織の中で、会社の能力を維持するためには、今の業務をどう変えて行かなければならないのでしょうか。
そしてその前に、政府が打ち出した《定年延長制》や《定年制の廃止》等の制度整備だけで、人員確保は十分なのでしょうか。たとえば、高齢で目が見えにくくなったら最低限『大きなパソコンモニターがいるね』という程度の日常の現実検討は、本当に最低限、必要になるでしょう。
更には、70歳の人が従来の50歳並みに働くために、機械的な補助ばかりではなく、その個人の《知識や見識》を、社会の変化に合わせてバージョンアップさせなければならないかも知れません。もはや『私はアナログ人間だから』という平成ジョークは、笑えなくなるはずなのです。

8.有益で質実剛健な経営計画への全社展開

勉強のためには、学生時代と同様に《時間》と《資金》が必要です。そして、一般の進学塾が取り組むように、まずは《できる》人に勉強をさせ、それを塾内(社内)の他者のお手本にしたり、塾外(社外)から人を呼ぶアピールポイントにしたりする発想が必要になります。
変革の時には、全員の底上げではなく、先頭を走る牽引車が不可欠だからです。そして、そのための《教育支援戦略=教育支援計画=社内教育制度》が重要になるのです。そして、そんな教育戦略実現のために、少ない人数でも稼ぐプランを捻出しなければならないわけです。

9.稼ぐだけの経営計画はもう意味が薄い?

ただ稼ぐことを企図するのではなく、社内の人材のレベルアップを図り得る計画意識が、今後は重要になって来るということです。
そして、その《学び促進プラニング》では、『一人のための学び支援策は、全社計画の一環であり、その成果はいずれ皆のものになるし、みなのものにする』という発想が、不可欠になるはずなのです。
まずは、社内教育制度に以上のような《重み》が出て来たことを意識するところから、見せかけではなく、質実剛健な経営計画への第一歩が生まれると言えるのです。