社会保険労務士事務所のような専門性の高い業務には、先生方が《普通の業務》だと感じておられるものでさえも、《形》を整えて表現したら、他に提案できる《有料商品》になり得るという講座を、ご提供したことがあります。
その後、体験や見識を『どう形に表現するのかの具体的なイメージが欲しい』というご要望が寄せられました。そこで、そのイメージの土台を、可能な限り手短な方法で作り上げるポイントをご紹介したいと思います。

1.解決策だけをまとめても力にはならない

見識とかノウハウと呼ばれるものは、普通《問題を解決に至らせる知恵》のようなものだと捉えられています。《解決法を知っている》ことこそ見識でありノウハウなのだということです。しかし、その考え方は少し注意を要するかも知れません。解決法が問題把握なしに独り歩きするのは不可能だからです。
たとえば医者が『私は病気の治し方を熟知している』と言ったら、私たちは『どんな病気を治せるのか?』と聞くでしょう。そして、私たちが《藪医者》と呼ぶのは、たとえば、どんな病気でも『風邪ですねえ』と診断して、いつも同じ薬(解決策)を出す先生ではないでしょうか。

2.見識を感じさせる素は《どんな》ものか

いつも風邪薬を用意して、どんな患者にも『ああ私は風邪なんだ』と思わせるトーク力を磨く方向でも、医療商売としては成立可能かも知れません。しかし、それでは継続的な敬意が受けられず、結局は信用を失って、早晩衰退してしまうでしょうし、少なくとも見識を感じさせる主体にはなれません。
つまり私たちが見識者とか知恵者とか呼ぶ対象は、急いで解決策を提示する人ではなく、《問題を的確に把握してくれる》人なのではないでしょうか。つまり、見識とは問題把握力であり、体験とは、その問題の現実に正面から触れる行為そのものだと捉えられるのです。

3.解決策は大事だが《その前》が更に肝心

たとえば過去に、従業員から『わが社では頑張りが報いられない』という不満をぶつけられ、経営者が『従業員の努力に報いる支払いの仕組みを作りたい』と言われたことがあったとします。その時『では、こんな賃金制度や給与体系を…』と急いで提案しても、経営者からは『私は普通の風邪ではないと思うんですよ。そんな薬なら薬局でも買えます』と言われるかも知れません。
では、その会社ではいったい《何が問題》だったのでしょうか。その《問題への踏み込み》こそが肝心になるはずなのです。

4.ある建築事務所での問題を例にすると…

たとえば、独立系の建築設計事務所の職員が、『徹夜で設計書を作ったのに、私は報われなかった』と言ったとします。その職員はもちろん、『残業代さえまともに出なかった』という不満を持っているかも知れません。しかしその設計書は、ビジネスとして報われているのでしょうか。『儲けになっているのか』ということです。
もし、ビジネスとして報われていないなら、その職員個人に報いる財源を獲得できません。真っ先に賃金制度を、こう言ってよければ、いじくりまわしても、経営者の納得は得られないことの方が多いでしょう。

5.問題の捉え方で努力方向が大きく変わる

ところが話をよく聞くと、営業を担当している所長が、その職員の《設計書作り》に関与していなかったことが分かって来ました。顧客訪問に職員を同行もさせず、仕事を曖昧な言葉で《丸投げ》していたのです。
職員は、暗中模索で仕事をしなければならず、多大な時間ロスが生じます。所長に相談したくても、外出の多い所長は、なかなかつかまりません。
どんなに設計書の体裁が整っていても、そんな《提案》が通るはずはありません。つまり、問題は設計書ではなく《仕事の進め方》にあったわけです。

6.一見遠回りに見えてしまう近道の発見!

そこで、所長や職員に『成果を出すには、どんな風に仕事を進めればよいのか』を話し合わせます。見事な正解が出なくても、職員が『これなら働きやすい』と感じ所長が『それなりにでも売れる企画が期待できる』と思えるポイントが見つかったら、それで双方が《やる気》を出すベースが出来上がります。
不満の素は給与レベルではなく、職員の『無益な労働をさせられている』という思いであり、所長の『この職員は、価値のない設計しかできない』という失望感だったわけです。
お互いがお互いの気持ちを知って、《出来る範囲で協力しよう》という思いを共有し始める時、初めて問題解決への一歩が生まれると言えそうなのです。

7.相談に乗って事情を知ることがスタート

実は、この一見遠回りに見える活動がコンサルティングなのですが、『そんな遠回りをすると賃金制度や業績評価制度が売れない』と心配する必要は小さいのではないかと思うのです。上記建築設計事務所の所長と職員の協働が、少しでもうまく行き、双方にビジネスが報われる可能性を感じられ始めたら、余程の偏屈でもない限り、《所内での努力に報いる仕組みが欲しい》あるいは《ビジネス成果を適切に分配する制度が必要だ》と考え始めるはずだからです。たとえまだ、事務所としての成果を実現していなくても…。
逆に、所内のお互いの気持ちがズレたままで、制度や規則で丸め込もうとしても、それは難しいことでしょう。たとえ報酬を大幅に上げても、人の欲には《きり》がないことの方が多いからです。

8.大事なのは問題の根に視線を向けること

例が長くなりましたが、社会保険労務士事務所の普通の業務を有料業務に進化させるための第一歩は、しかも大きな第一歩は、過去に体験した問題の《底にあった根》を可能な限り深く考えてみるということなのです。そして、そこで見つけた問題を《箇条書き》にしてみます。その箇条書きは、うまく行った事例からでも、そうではなかったケースからでも探すことができるはずです。
もし、ご自身の体験談がない場合は、《疑似体験としての事例を仕入れる》ことも選択肢になるでしょう。それがご自身の体験かどうかよりも、ターゲットとする関係先と、その問題点を共有できそうかどうかの方が大事だからです。

9.士業ビジネスが健全に有料化するケース

解決策は、教科書の中にでもネット上でも存在します。しかし、問題は《そこにある現実》の中からしか見出せません。そのため、講座でお示しした3つのポイントが、なかなか機能しないとしたら、『もしかしたら、急いで顧客に改善提案を示してしまったからではないか』と捉え直して、様々な問題事例の提供を通じて、『ああ、これが問題だったかも知れない』という共通の思いに、先生と顧客である経営者が至れる道を探してみることが重要だと思います。
コンサルティングとは解決策を提供することではなく、むしろ問題を明確にすることに他なりません。解決は、クライアント自身が行うものです。そんな基本に関わる大きな誤解が、なかなか解けないのです。
そして、営業力のあるコンサルタントなら、問題の明確化だけでも有料化するでしょうが、先生方の場合、解決策の選択肢を既に《専門見識》として持っておられるわけですから、その解決策の提供で、必ずしも凄腕の営業者にならなくても、業務の有料化は容易になると言えるのではないでしょうか。

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