1.意図に反して無料サービスを迫られる時

たとえば、顧問先や関与先から『パワハラ対策で何をすれば良いか教えて欲しい』と依頼されたとします。その際はもちろん、厚労省等のホームページから、パンフレットをダウンロードして『こんな体制を整えなければならない』と、比較的容易に説明ができます。
ところが、その後はどうでしょう。
もちろん、法対応業務自体の有料受注は可能でしょうが、それ以前の対応のための役員会説明や、対策実施に際する社内説明が求められると、その部分が無料奉仕になってしまう危険も残るのです。そればかりか、個々に問題が発生した時、経営者に振り回されるかも知れません。
もちろん、そのために労務顧問契約を結んでおくのは、1つの重要なアイデアですが、その契約の範囲内で、あれもこれもさせられる事態を回避できるとは限りません。

2.なぜサービスを《有料》にできないのか?

ただ、専門サービスを《有料化》できない理由の多くは、実は、先生方が『その支援に、これこれの費用が掛かる』と告知していないからに他なりません。そして、告知しない理由には《お金が掛かるとは言いにくい状況》に身を置いてしまうことにあるのです。
そのため《専門サービスの有料化》とは、一口に言うなら、《費用が発生することを告知しやすい》状況を作り出すことにあると言えます。
経営者も事業人ですから、全てのサービスが無料になるとは思っていません。ただ、無料で押し切れるなら、そうしたいと考えているだけだと捉えるべきでしょう。『へえ、そんなことにもカネをとるの?』と言うのも、威圧によって人を動かすことに慣れた《経営者の常套句》で、気にすることはありません。

3.無料サービスも戦略的に実施すべきだが…

逆に、全てのサービスを有料にする必要もないと思います。先生の専門見識で即時対応できるような案件では、いちいち有料化する必要性がないケースもあるでしょう。
しかし、その際にも『サービス内容と実施方法(=こんなことをこんな風に致しますという告知)と無料サービスの範囲の提示』は必須です。そうしないとキリがなくなるからです。キリが明確でない無料サービスは、先生方の負担になるのみではなく、『そこまでしかしてくれないのか』という形で、結局顧客の不満の素にもなってしまうのです。
しかも、この『サービス内容の方法と範囲の提示』は、無料サービスの有効性のみではなく、サービスの有料化の基本ともなり得ます。

4.内容と方法が決まったら価格を設定する

たとえば、先のパワハラ対策に関して『法的対応のみならず、組織経営上の課題や現場のリーダーのあり方までまとめたセミナーを私は実施しているのですが、それを御社の役員会で行いましょうか?』と、内容と方法を決めて働きかけます。もちろん、経営者とのマンツーマン研修形式にしても良いかも知れません。
そして『その程度でしたら費用は掛かりません』と言うか、『幾らいくら掛かります』と言うかを決めます。その際、もちろん《日程》等の決定も重要になるでしょう。
なお、サービスを無料にするのは、必ずしも相手企業にとって良いこととは言えません。経営者は『次回も無料になる』と誤解し、何度も依頼を出したくなるからです。取引にケジメがなくなれば、良好な関係も崩れやすくなるのです。
どうしても無料にしたい時には、標準価格を提示して無料にするか、次回からは費用が掛かると、一声掛けておくのが取引の鉄則です。

5.目に見えないサービスの価格設定方法

ただ、サービスに価格を付けるのは、想像以上に難しいかも知れません。しかし、研修のためのテキストや、プレンゼン用のパワーポイントがあるなら、価格設定はそんなに難しくはないはずです。
実のところ、特にサービスには、適正価格が存在するわけではないと捉えるなら、まずは先生方が満足できる最低限の価格を打ち出してみることが肝要になると言えるのです。
《最低限》と申し上げたのは、顧客である経営者に割高感を抱かせないためと、値引きに応じないラインとの《バランス》の検証を重ねて行くためです。

6.価格は仮設定と打診の中で決まって行く

つまり、価格設定に関しては、まず先生方が『想定した業務で特に不満はない価格レベル』を想定するところから始まるということです。そして、顧客の反応を想像しながら価格を調整して、その上で顧客に打診してみるのです。
顧客が高いと思うなら、内容を削減あるいは簡素化しながら新たな価格を設定し、再び先生ご自身の満足度に問い掛けます。そうしてお互いの満足の交差点で契約することになるわけです。どちらかが満足できないなら、サービスは成立しません。あるいは成立させてはいけません。

7.有料化は過剰サービスを断る理由にもなる

条件が合わないからサービスは行わない(行えない)という意識に立つなら、先生方はそれだけで、顧客からの無理難題を制することが容易になるでしょう。無理難題を『それは有料ですよ』という一言で、かわせるようにさえなるからです。
顧客サイドでも『価格が不満足なら、自分で組織内セミナーをしなくてはならない』と感じるはずです。そして、それは顧客の経営取り組みに対する自己啓発の機会になり、社会保険労務士事務所の専門性の価値を理解する機会にもなります。
有料化を正面から捉えないために、経営者の自己啓発や専門見識の価値認識の機会を奪っていると考えてみるなら、ビジネス取引が持つ積極的機能に敬意が持てるようになるはずです。ビジネスも営業も、少なからず建設的なものなのです。

8.実態に即した士業の有料サービスメニュー

もちろん、顧客から示されたニーズ対応のみが、社会保険労務士事務所の有料サービスではありません。給与体系の見直しや就業規則の変更、あるいは人事評価制度や昇給昇格の仕組み等、顧客が必要性に気付かない案件も、積極的に提案すべきでしょう。
しかし、その場合にも注意が必要です。たとえば給与体系の見直しに際しても、《見直し業務》のみを有料化するのではなく、その前振りとしての《経営陣が検討するのに必要な基礎知識や選択肢等の勉強段階》から、内容や方法(例えば研修等)を明確にした上で、価格設定をしておくことが不可欠になるからです。
時々『えっ、勉強段階から有料にするの?』と聞かれることがあります。しかし、その《勉強》機会の提供こそが、実はコンサルティングの本姿なのです。そして、業務の提供も知恵の提供も、両者ともに《対価》があってしかるべきなのです。

9.もっと体系的に有料化を捉えるなら…

専門サービスは、段階的に経営をレベルアップさせるための階段(勉強テーマ)を、一段ずつ提供するという発想に立つべきでしょう。そして実は、それこそが経営コンサルティングの奥義だとも言えるのです。
ただ、この話は更に長くなってしまいますので、別途以下のような講座に、考え方と実践法の両方を、具体的に取りまとめました。

ともすれば、パッケージ的提供に走って、それを実行できない経営者を『レベルが低い』としてしまいがちですが、コンサルティングでは、経営者の現実のレベルに立ちながら、一歩ずつ一緒に進む方法を提供して行くからこそ、相互にメリットが出る有料化が実現して行くことになります。

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