働き方改革に感染症対策が重なって、多くの企業で人事労務分野に“大小”様々な課題や業務が発生しています。 特に従来、人事労務分野にあまり注力してこなかった企業では、混乱や、それを通り過ぎた諦めまで生じ始めているかも知れません。こんな時、社外から経営の支援をする専門機関として、社会保険労務士事務所は何をどうすべきなのでしょうか。しかも、その支援を継続するため、どのようなスタンスをとるべきなのでしょうか。
一つの視点をとりあげてみました。

1.ある種の原則:困難な道では特に“足元”が気になる

 事業経営のような大課題から、日常茶飯事に至るまで、私たちの気分や思考パターンには、ある種の原則が働いていると言えるかも知れません。それは“行く末”を困難に感じたり、限界を超える課題を抱えたと感じたりすると、特に“足元”、つまり目先の問題が気にかかり始めるということです。
 たとえば、感染症対策のために“勤務の形態や時間”の見直しをしようとする時、急に従業員の“認識不足”が気になって、説教をしたくなるということが起きるわけです。その説教も、もしかしたら長期的な育成視点からではなく、つい最近“問題を感じたけれども言わずにおいた”という程度のことだったりするかも知れません。

2.迷いの多い時は“些事”や“目先事”が異様に気になる

 そうした傾向が、企業の外、特に“経営支援者”に向けられると、とにもかくにも些細な改善を依頼したくなるという傾向に繋がりやすくなります。場合によっては『先生に、かつて、こういう質問や依頼をしたのに、答えてくれていない』という、やや思い込みとも言える思いから生まれることもあるのです。
 いずれにしても、迷いやすい道に入り込んでしまった時、多くの経営者は、短期的にも長期的にも重要な課題よりも、自分の見識の範囲で気になってしかたがないことに振り回されがちになるということなのかも知れません。
 これは、既に労務顧問契約や給与計算代行契約など、いわゆる“サブスクリプション”的契約関係の中では、経営者にも先生にも“要注意”の問題だと思います。そして、それは逆に、まだ“サブスク的契約”が存在しない先に、顧問契約や業務代行契約を締結する好環境をも生み出すのです。

3.新規先を開拓する好機のイメージ

 そこで、まずは“新規機会獲得”の話題から取り上げてみましょう。たとえば、『通勤費で、バス代を請求していながら自転車で通勤する従業員がいる』とか、『午後の始業時間が守られていない』等という些事でも、経営陣が気にし始めると大問題になりかねません。そもそも“問題”とは、簡潔に言うなら、“容易に解決方法が見つからない”ことに他なりませんので、結局は、“自分で解決できないことを気にし始める”という姿勢で、自ら招くものだからです。
 その一方で、就業規則の整備や業績評価制度、あるいは給与規定の見直し等、経営にとって重要な基本課題は、“気にしないから問題ではない”わけです。そのため、重要な経営課題をベースに、新しい関与先との関係を結ぼうとする時は、その課題を経営者に“気にさせる”ことから始めなければならないのです。
 しかし、経営者が些事を気にしている時は、事情が異なります。既に、ある種の“問題意識”が存在しているからです。

4.相談が意味を持ち始めるための“2つの条件”

 そのため、先生方にとって、経営者の当面の心配事の“相談役”を引き受けながら、順次『“就業規則や人事制度”あるいは“給与計算代行や給与体系整備”の課題に、効果が生まれやすいところから取り組みましょう』というアプローチが容易になるわけです。
 そのアプローチが成功あるいは成立するための条件は2つです。その1つは、先生方が、人事労務に関して、長期的な視点から提案すべき課題があると考えておられることで、もう1つは、どんなに煩雑に見えても、忍耐強く経営者の話を聞くことです。

5.些事を相談する経営者の“本音”?

 日常的な心配事の“相談受付”は、見事な解決を示すために行うものではないとも言えます。日常事の内容は、経営者の方がはるかに“知っている”ため、経営者はしばしば“別のこと”を期待しているからです。
 その“別のこと”とは、『話を聞いてくれるかどうか』『対話の波長が合うかどうか』です。些事は、確かに気になるのですが、それが経営の根幹を揺るがす問題だとは、経営者も思っていないのでしょう。
 顧問契約上の対話であれ、給与計算代行契約での経営者との交流であれ、重要なことは“経営者と些事について真摯に対話できるかどうか”であり、その解決に関しては、必要ならば、方向性を示唆して、その解決は経営者に任せるべきかも知れません。
 しかし、その“対話”が、徐々に、あるいは突然、重要な“人事労務課題”に向けられるケースも、決して少なくはないのです。

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