中堅中小企業経営者の《人事労務テーマに関する意識が薄い》としたら、それは経営陣の能力不足よりも、“実践的に一つ一つマネジメントの支援をしてくれる先”が、身近にあることに気付いていないからかも知れません。
そのため先生方が、まず《経営支援力》を経営陣に気付かせることが大事になるのです。大きなテーマに遭遇する時のみならず、日常的に《ちょっと困った問題の把握と解消》を指導する機関が、今多くの中堅中小企業に不可欠になっているからです。
目次
1.ある会計事務所の先生が語った《企業》の現実
最近では、やや下火になりましたが、ある会計事務所の先生が、『一時(コロナ禍の直前頃)経営者から“人の問題”の相談が本当に増えた』と言われていた時期がありました。いわゆる《社内トラブル》が、様々な企業に襲いかかっていた頃です。
最近そうした傾向が下火になったのは、経営者の目が“コロナ禍”に向いているからでしょうか。もしそうだとしたらなおさら、withコロナあるいはAfterコロナで、再び“その傾向”が再来するかも知れません。
2.社会保険労務士事務所に押し寄せていた相談!
もちろん同時期には、社会保険労務士事務所の先生方にも、多々人事労務関係の相談が多く寄せられていたでしょう。ただ、それは《社内トラブルへの対処法》と《当時はまだ来るべき改革だった働き方改革の影響度》に関するものが多かったのではないでしょうか。
『それが社会保険労務士事務所の本業だから当たり前だ』とも言えますが、実は今、社会保険労務士事務所の《本業》について再検討すべき時期に来ているかも知れないのです。
3.社会保険労務士事務所の《本業》の再検討…?
申し上げるまでもなく、国が非上場企業や個人事業主から適正に税を徴収するための指導者として会計事務所があるように、社会保険労務士事務所は、企業が労働関連の法律や、そこに定められた諸手続きを遵守し、福祉の一環として適切に社会保険を負担するための指導者であることは間違いありません。
しかし、社会保険労務士事務所の《経営指導機関》としての社会的認知度としては、まだ少し薄いものがありそうなのです。そしてそれが“人の問題”をも含めた《経営相談》が、会計事務所へ行ってしまう要因だとも捉えられるのです。
つまり、制度や規則の導入が具体化する前の《漠然とした組織問題》の相談先を、企業は見つけ出せていない恐れがあるということです。
4.経営の指導者としてのポジションの確立法は?
ただ、社会保険労務士事務所が経営の指導者であることを、もっと経営陣に認知させる方法は、必ずしも先生方の見識や実力をアピールすることではありません。むしろ、企業の経営陣に《人事労務が企業業績を確保拡大するための重要な経営課題》だと認識させることなのです。
会計事務所が《経営の先生》として認知されるのは、こう言ってよければ、タイミングのよい月次決算の試算表が、経営陣の判断のために貴重なデータであり、その後の業績は、その判断で大きく左右されるという印象付けが成功しているからでしょう。
5.大課題よりも企業の日常的悩みに寄り添う姿勢
年度決算準備のための《月次作業》でも、それがどれほど経営に役立つかを語り続けることで、『月次試算表の早期の受け取りこそが経営を支える』という通念を生み出したとも言えるのです。そしてその通念故に、会計事務所は《経営の先生》なのです。
今、経済社会の状況は《人事労務課題こそが組織の士気を通じて企業業績を左右する》と正面から捉えるべき時に来ています。生産性が企業の最大課題だということは、まさに《企業業績は構成員の働き方次第だ》と言っているのと同じだからです。
しかし先生方が《そう言い出さない》なら、企業の経営陣は、先生方を《専門家》とは見ても、日常経営の指導者だとはイメージできないのではないでしょうか。
6.《専門家》と《経営指導者》との根本的な違い
たとえば昇級昇格制度や就業規則の見直しを考えた後に、企業が相談する先は《専門家》です。その一方で、社内の不活性化を漠然と感じる経営者が、問題の特定や解決の方向性を相談する先が《経営指導者》なのです。
つまり一口に言うなら、まだ問題の特定すらできていないような先に斬り込むのでなければ《経営指導者》のポジションは得られないということです。
もちろん専門家は不可欠な存在ですが、チャンスを《待っている》なら、経営指導的ポジションではなく、一時的な業務受託的ポジションでの《対応》を迫られるわけです。
7.今は社会保険労務士事務所業界の歴史的な好機
ただ、企業経営の《指導者》の立場をとろうとする時は、いきなり大きなテーマでアプローチするより、《経営者の日常的課題》に触れ、そこで《人事労務課題の見識不足》が、企業業績にいかにマイナスに働いているかを指摘することから始めるべきでしょう。
それは普段なら、決して容易なことではありませんが、働き方改革に関わる組織運営のサポートや、コロナ禍後に再燃しかねない社内トラブルへの取り組みが、先生方の指導力を経営陣に認知させる《この上ない》機会になると、ご指摘しないではいられないのです。