就業時間中にインターネットで遊んだり、外出時に勝手な休養をとったりするような行為は論外としても、『業務指示の通りに動いてくれない従業員が多い』と感じる経営者が少なくないのは、なぜなのでしょう。
その理由を捉えてみると、社会保険労務士事務所の経営支援の《長期的な方向性》が見えて来ます。

1.《赤黄青》の交通信号への理解さえまちまち

『信号が黄色なのに、《止まるな行け行け》と怒鳴る客がいる』と、あるタクシーの運転手が嘆いていました。そこで『黄色って、止まらなければいけないのですか』と聞くと、運転手は黙り込んでしまいました。恐らく《同類の客》だと思われたのでしょう。
交通信号は、子供の頃、多くの人が『赤は止まれ、青は進め、黄色は注意』と教えられたはずです。もし、黄色が《止まれ》なら、黄色の存在意味はなくなると言えるかも知れないのです。
ただそれは、それは信号の色の意味の不理解に過ぎません。

2.信号の《黄色》が現実的に意味するものは?

では《信号の黄色》は、何のために存在するのでしょうか。こんな日常的な話題でも、改めて考えると、案外《理解があいまい》な時があるのです。
申し上げるまでもありませんが、歩行者であれ車の運転者であれ、目の前の信号が黄色になったら交差点に入ってはいけない(止まれ)という合図になります。ただし例外として、信号が黄色になった時に既に交差点に接近していて、停止線の前で安全に停止することができない場合に限り、そのまま進むことができるのです。《安全に停止することができない場合》には解釈の余地が残りますが、たとえば、急ブレーキを掛けて後続車から追突される危険があるような場合等が考えられます。
つまり黄色信号は、基本的には交差点の前で《止まれ》ですが、安全に止まることだできないような状況では例外的に《進め》であるために、赤でも青でもなく《黄色》になっているわけです。

3.勝手な解釈は《どのように》生まれるのか?

しかし、この黄色信号の具体的な意味を把握せず、『黄色は注意警告だ』と解釈してしまうなら、タクシーの運転手に『行け。注意すれば大丈夫』と言いたくなっても不思議ではありません。ルールには、こうした弱点があるのです。
社内での業務も同様です。たとえば、ある従業員(Aさん)が、『業務は命じられたことの実行だ』と解釈しているなら、上司からの指示がなければ、遂行すべき業務は見つかりません。しかも、以前に遊んでいると、社長がやって来て、Aさんにではなく、その上司を『部下を遊ばせるな』と叱っていました。
どうやら、Aさんに業務がないのは上司の責任のようなのです。自分はただ、上司からの命令があるまで《時間を潰していた》に過ぎません。

4.歴史的に存在し続けて来ている非常識な若手

『そんな非常識な従業員は、以前はいなかった』と言いたくなるところですが、平成にも昭和にも、多分大正にも明治にも江戸時代にも、《仕事をしているフリをして時間を潰す》働き手は大勢いたでしょう。パソコンがなかった時代には、《暇つぶし》を見つけにくかっただけかも知れないのです。
Aさんが外出した際も同様です。命じれた先に訪問し、命じられた業務を済ませたら、Aさんの責任は終了です。帰社しても5時を回り、それから退社時間の6時までに命じられる業務はなさそうにも思えます。それなら、喫茶店で1時間ほど時間を潰し、帰社せずに直帰するのも合理的かも知れません。

5.意図して作り上げるべき組織としての合理性

ただし、それはAさんにとっての合理性であり、組織としての合理性かどうかは検証してみなければならないでしょう。ところが、《組織としての合理性を明確に示していない会社》は、本当に多いのではないでしょうか。組織運営は《個人の常識》によって運営され得るという思い込みが、綿々と続いているのです。
そのため、『最近の若者には常識がない』とか『家庭でしつけられていない人は使えない』という感想が、経営陣の口から洩れてしまうのでしょう。しかし、その愚痴は平成にも昭和にも、多分大正にも明治にも、そして江戸時代にも繰り返されたものではないでしょうか。
『最近の若者は…』と嘆く人もまた、若い時は非常識人だった可能性の方が強いのです。

6.社会的な感性や価値観は時の経過の中で変化

私たちの感性は、時代変化と共に変わります。占星術の先生は『土星の周期(約30年)で社会感覚は変わる』と言います。土星の周期は《世代》の根拠になるものだからです。
しかし今では、土星の周期ではなく、木星の周期(約12年)、あるいはそれどころか火星の周期(約2年)で、私たちの感覚は変わってしまっているかも知れないのです。たとえば、真夏に台風に襲われる等、一部の地域を除いて、ついこの間まで誰も考えもしなかったかも知れません。
そのため、今や《万民共通の常識》は存在しないと捉えるべき時なのです。黄色信号では《注意して渡りましょう》という常識しか持っていない人もいるということです。特に車の運転時には、黄色でもさっさと進まないと渋滞の原因にもなりかねないからで、その常識にもそれなりの合理性があるのです。

7.《異質な常識》を持つのは若者だけではない

しかも、定年制の延長や廃止で、以前には見られなかった常識を振りかざすのは、若者だけに限らなくなりました。高齢者が『無理なく働けばよい』という常識で、自己防衛をするケースが増えているからです
『ああ、ちょっと目が痛いんで、今日はパソコンに触れません』と言われたら、組織としてどう対処するのでしょうか。『女性を意識させる全ての言葉はセクハラに通じる』という常識を持っている女性への対処も考えなければなりません。もちろん『女性は職場の花だ』と心の底で思っている人へも対処が必要です。
つまり今、組織を健全に運営しようとするなら《組織としての新常識を作る》必要があるし、《自己流の常識を打ち破る命令形態をとる》ことが必須になるということなのです。

8.変わり始めている《社内規程=内規》の役割

《命令》については、《命令者への具体的な教育》が必要になるでしょうが、《組織の新常識》は《内規》を通じて確立できるはずです。組織運営の規範は《就業規則》(だけ)だと捉えている経営陣には、『それって、黄色信号は注意して渡れというあいまいな文化を生みますよ』と警告しなければなりません。就業規則は主として、労働条件を定めるものだからです。
法律の範囲内ではありますが、経営陣には様々な《内規》を作る権限と自由があります。その権限と自由を活かして、まずは《社内の常識》を確立しなければ、土星人や木星人、火星人や地球人が混在する今日の組織は《運営不能だ》という意識が求められるのです。

9.システムに囲い込まれ過ぎない分野の新構築

社会保険労務士事務所ビジネスとして捉えるなら、この《内規の社内常識形成力》に目を向けることが、今後の長期的展開の基礎になると言えそうです。あらゆる業務がシステム化され、そのシステムの不具合によって社会保険労務士事務所の顧問料引き下げさえ求められる昨今、システムに囲い込まれない分野に《中核業務の1つを持つ》ことは、今後の社会保険労務士事務所ビジネスの命運に関わるかも知れないからです。
そのため、《内規》の効用についての見直しは、企業のみならず社会保険労務士事務所ビジネスにとっても、今後益々重要になると申し上げられるのです。

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