経営者の愚痴と問題意識の境界線~そこには何があるのか?

指導法の《原則戻り》の意外な効果
愚痴ばかりが先行する経営者は、前向きな問題意識を持つ経営者に《変容》できるのでしょうか。ここに意外な《指導法の原則戻り》の課題が秘められているのです。

(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)

1.経営者の愚痴は聞いていられない?

経営者の中には、『国の法律が気に入らない』とか『社会保険料が高い』というものから、現場や管理者の意識や能力レベルに至るまで、《愚痴》を繰り返す人がいます。
その愚痴は、先生方の顧問料や業務受託料にも及ぶかも知れません。そんな愚痴を聞いていると、うんざりして来ます。しかし、《愚痴》は小さな溝を挟んで《問題意識》と隣接していることを、忘れるべきではないのです。

2.問題意識のある経営者は接しやすい

問題意識は、組織運営を何とか好転させたいとか、経営理念や業務安全を実現しようとか、生産性を高めて人員不足を克服したいとか、そんな前向きな活動源になります。
しかも、そんな問題意識を持つ経営者は、先生方への接し方も丁寧でしょう。問題克服のためには《プロ》の見識や業務サポートが不可欠だと、実感できているケースが多いからです。
ただ、そんな愚痴と問題意識の間にある《小さな溝》とは、どんなものなのでしょう。

3.諦めが問題意識を愚痴に変える!

一口に捉えるなら、その溝の正体は《諦め》に他なりません。問題意識が《諦め》を通ると《愚痴》に変わってしまうということです。
たとえば、『わが社の給与体系は、必ずしも公平とは言えない』という問題意識が、『公平な給与制度等あり得ない』という諦めや、『給与体系革新に取り組んでも、従業員が業績に貢献するようになるわけではない』という希望喪失が、聞くにも堪えない愚痴に繋がる傾向を生むということです。

4.愚痴を言う経営者の方がまだマシ

ただ、こう捉えるなら《愚痴を言う経営者》は《無気力な経営者》より、もしかしたら『数段マシなのではないか』とも思えて来ます。なぜなら、無気力とは異なり《愚痴は問題意識と隣接している》からです。
そのため、経営者の《愚痴》や『どうせダメだよ』という類の《乾いた軽口》を耳にする時は、先生方の心の中に《不快感》ではなく《一歩踏み込む関心》を呼び起こす必要があるのです。
不快感を抑えて関心を目覚めさせるのは、決して容易ではありませんが、3回に1回くらいは実現しようと思うところから取り組み始めてみるのも手かも知れません。

5.経営者のどんな面に関心を示すか

その際に《関心を向ける》のは、『この社長は何を諦めているのだろう』という点です。ここでの《何》は、複数の方が多いかも知れません。ただ、どんなに数が多くても、その根底には『何から取り組めばよいか分からない』という困惑状況があるのが普通です。
それは『勉強したいのに、何から始めればよいか分からない』という、小学生の時にも存在していた感覚と同じで、多分、この世を去るまで付きまとう思いなのでしょう。

6.経営者に対して効果的な助言形態

ただ小学生が、学校や塾の先生の《助言》で俄然勉強を始めるように、経営者にも《適切な助言》が必要なのです。その助言内容は、決して《答》でも《ゴール》でもありません。経営者が『取り組んでみよう』『試してみてもよい』と感じ得る《開始点》なのです。
それが好ましい結果を生むかどうかは、経営者自身の努力次第ですが、《意欲の着火》は、自分では最も難しい取り組みになる場合が多いからです。

7.意欲の着火は《なぜ》難しいのか

なぜ難しいのでしょう。それは《いきなり理想形に至ろう》とするからです。特に現代感覚では『何が正解なのか』という言い回しが流行する程、完成形を最初からイメージしなければ気が済まないという感性の方が強い傾向があります。
その傾向は、教える側や支援者側にも蔓延しがちで、『いきなり高度な理屈や仕組みを提案する』という姿勢を生むこともあり得ます。しかし《諦めは完成型を先にイメージするから生まれる》という現実から離れるべきでありません。つまり『着手点をイメージ出来ないことを考え始めるから諦めが先に出てしまう』ということです。

8.最も重要な《試行の開始点》探し

たとえば、給与体系見直し《きっかけ:試行の開始点》はどこにあるのでしょうか。基本給査定あるいは人事評価制度では、どうでしょう。ハラスメント対策や管理者育成には、更にルール経営の実現には、《どんなスイッチがあり得る》のでしょう。

そんな《開始点》を明示しないまま、《あるべき姿》を見せ続けるなら、たぶん言い過ぎでしょうが、それは《諦めをお勧めしている》ようなものかも知れないのです。

9.諦めを呼び起こす材料提供は禁物

もちろん、実際には『何から取り組み始めるべきか』のみならず、『どんな障害があり得るか』をも提示する必要があります。そうでなければ、好調なスタートを切っても、最初の障害にぶつかった時に、やっぱり《諦めてしまう》からです。
効果的な経営支援あるいはコンサルティングは《正解提示》ではなく、『取り組みの“肝”のような部分を提示することにある』と言われるのは、そのためだと思います。

10.支援や指導サイドの喜びの源泉は

そして、そんな《肝=取り組みの要点と方向性》の話から、経営者が《努力》に着手し、その後の時間の経過の中で、《当初は想像できなかった成果や結果を出す》時、支援者や指導者は『ああ、そんな形の正解もあったのか』と、関与先から学び取れます。
経営支援あるいはコンサルティングは『教えるところよりも、クライアントの現実から学ぶ部分の方に醍醐味がある』という言葉もあるのは、そのためだと思います。

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