《ルール経営》と言うと、就業規則の整備や適切な運用を連想しがちです。しかし特に、自分の仕事には没頭できても《他者との連携》が苦手なコミュニケーション弱者や交渉弱者が急速に増えている現代、特定の人だけへの臨機応変な命令では、業務が容易に滞ってしまう危険が大きくなりつつあるのです。
そんな視点からも、《ルール経営》が経営にもたらす価値を改めて捉え直す必要がありそうです。

1.何でもないことも一旦考え込んでしまうと…

ある営業代行会社で、営業者のAさんが大口の見込み客を見つけ出しました。ところが、その顧客は若いAさんを見下し、なかなか正面からの対話に応じてくれません。困ったAさんは課長に《同行》の相談をします。しかし、就任して日の浅い課長は考え込んでしまいました。
課長が同行して成約した場合、その成果はAさんの業績になるのでしょうか。課長は『それでは不公平にならないか』と心配したわけです。それを見ていた部長が課長に『さっさと同行して来い』と怒鳴りました。

2.素朴な疑問を解消しないと従業員は動けない

課長が《悩みの内容》を話すと、部長は『とにかく契約を取って来い。個人業績の話は、後から何とでもなる』と言います。『はい、分かりました』と、課長がAさんとの打ち合わせに入ろうとすると、今度はAさんが『後からどうなるんですか?』と立ち止まります。部長は、不意打ちをくらって『言葉が出なかった』そうです。
部長が若い頃には《あり得なかった質問》だったからです。

3.根は同じでも今と昔で問題の表れ方が違う?

結局、その商談は成立しませんでしたから、Aさんの個人業績は問題にさえなりませんでした。しかし部長は、自分の若い頃を思い出して『問題の根の深さを感じた』と言われるのです。なぜなら、若い頃の部長は、自分のノルマのことばかりを考えて、上に相談することさえなかったからです。課長に相談を持ち掛けるだけ『今の若者は合理的になっている』とさえ指摘します。
そして部長は、もし《上との連携》を取るルールや、その際《個人業績がどの程度になるか》がはっきりしていれば、自分が若い頃に諦める必要がなかった案件も少なくないと、当時を振り返るのです。

4.協力や連携は《決め事》なしには進めにくい

営業に関わらず、《業務の協力や連携》には、確かに面倒で微妙な問題が付きまといます。そんな中で、上との連携を取ろうとしたAさんは、むしろ貴重な存在だったかも知れません。しかし社内には、それを受けとめる課長が《どう》すべきかという指針もルールもありませんでした。
『そんなこと考えれば分かるだろう』と怒鳴った部長自身にも、その答はありません。そして『社長に相談しても多分、その場で答は出ないし、むしろ怒られるだろう』と、部長は言われるのです。

5.笑い話では済まなくなった働き方のルール化

確かに、これは一見《笑い話》のようではありますが、会社組織内には《従業員の素朴な疑問》に対する的確な答が、実は少ないかも知れません。
そして、それが今まで問題にならなかったのは、各担当者に、《忖度》を忘れなければ、自分もいずれ出世し、良い処遇を受けられるという暗黙の了解があったからでしょう。しかし『別に出世などしたくない。公私のバランスの方が大事だ』という人が増えた今、先行きの漠然とした希望ではなく、目の前の明確なルールの方が、人を動かす力になりやすいのです。

6.体系的な規則よりも動きやすいルールが必須

ただし、大勢の採用者の中から社長が生まれるような、こう言ってよければ《民主的》な大企業ではなく、社長が会社のオーナーである《王国的》な中堅中小企業とでは、必要とされるルールの特質は、大きく違って来るかも知れません。しかし、そこで働く現代感覚の従業員が《ルールなしでは動けない》ことは、共通しているはずです。
そのため大企業と中堅中小企業が必要とする《ルールの違い》は、内容自体ではなく、その《定め方》の部分にあると言えそうなのです。では、どんな風に違うのでしょうか。

7.社内規程が持ち始めた重要な経営ポジション

中堅中小企業では、大企業とは異なり、体系的なルールよりも、必要とされる身近なルールを必要に応じて必要な順番に決めて行く方が、現実的であることが多いでしょう。それは、組織として求められるルール(社内規程)を完成するより、社内規程リストを参考にしながら、必要なルールを自社なりに選択して行くという方法です。
そのため中堅中小企業の《ルール経営》は、必要に応じて、たとえば《給与の諸手当の見直し》のような身近なところから始め、それを徐々に、給与体系全体の見直しや、昇給昇格制度あるいは評価制度に繫いで行くというスタイルの方が、経営者にも、そして先生方にも《取り組みやすい》と捉えられるのです。

8.経営者の動機付けとその後の展開イメージ!

もちろん、そのためには《経営者をその気にさせる》動機付けが必要になりますが、一旦動機付けができるなら、社内規程は、出張旅費規程のような日常的なものから、給与規程や人事考課、あるいは教育研修やコンプライアンス、キャリアパスの設計や福利厚生まで、経営の広い分野をカバーするようになります。
社会保険労務士事務所が、益々中堅中小企業の《経営》にとって、欠かせない存在となって行くわけです。そんな《動機付け》《展開イメージ》を、経営者向けの提案企画として、先生方に使っていただけるツールに致しました。詳しくは、こちらをご覧ください。

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