ルール経営の基礎になる《見えにくい要素》

なぜ私達は《約束する》のか
私達は、頻繁に《他者と約束》し《自分に誓い》を立てます。何度裏切られても、それをやめようとはしません。その《理由》の中に重要な組織経営要素が見えて来るのです。

(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)

1.どうして約束形態をとるか?

私達は、たとえば『明日午後7時に○○で会おう』と約束します。『なぜ約束するか』と問うなら、当然、明日午後7時に、その人に会いたいからです。しかし『それがどうして約束の形態をとるのか』と問い直すと、興味深い答が見つかり始めます。
その答とは『約束の形態以外に、相手に強いる方法がない』からに他なりません。

2.脅迫することもできるはず?

ただ、もちろん『明日午後7時に来なければ、ひどい目に遭わすという脅迫はできるではないか』とも言いたくなります。そして、興味深いことに、この《脅迫的アプローチ》は、まさに《これまでの組織経営》に似ているのです。
従来型の組織経営は、ほとんどの場合《いわゆるアメとムチ》によるものでした。目標であれノルマであれ、何らかの《責務》を与え、その実現度で《評価を下す》というスマートな手法であるために脅迫とは言えなくても《強要的》ではあり得るでしょう。

3.アメとムチは反対語ではない

やや余談になりますが、《アメ》と《ムチ》は普通《反対語》として使われます。確かに、それを受ける側にとっては、アメは好ましく、ムチは疎ましいという意味で《正反対》だと言えます。
しかしアメは、『実現しなければアメはないぞ』という強要的な要素を含むという側面を否定できません。逆に『実現したらムチはない』と言うなら、それは受け手の安堵を誘うものでもあり得るのです。その意味では、アメにもムチにも《強要的そしてその裏の解放的》要素が含まれていると捉え得るのです。さて、話を前に進めましょう。

4.意外にも歴史的転換点だった

ただ、2000年初頭から表面化して来ている《社内トラブル》や、2020年と2022年のパワハラ防止法施行を体験しても、ビジネス組織が《強要的な経営》から脱却するのは容易ではなさそうなのです。
それは、いわゆる《文明》が始まって以来、人の集団=組織は《アメとムチ》で運営されて来たという経験知によるものでしょうか。もしそうだとしたら、私達は今《大きな歴史の転換点》に立っていると言えるのかも知れません。ただ、そんな大きなテーマに取り組む方法があるのでしょうか。

5.転換点は乗換え点だと捉える

今が《歴史的転換点》であったとしても、無から有を生じさせるのではなく、ただ《乗り換える》だけだと捉えるなら、そんなに難しそうでもありません。
そしてその《乗換え》こそが、《一方向の強要的発想から双方向の約束への移行》なのです。《強要》は権力を持つ者が従者に向けて行いますが、《約束》は対等の関係の中で結ばれるのが普通だからです。
そして、現代に働く人たちは、職場の権力者と《ヒトとしての対等の立場》を望んでいると理解するなら、《約束の今日的な重要性》を認識できるようになるはずです。

6.約束は心もとないという誤解

ただ重要性を認識できても《約束が成立する背景(ベースにあるもの)》が分からなければ、『約束なんて何の役に立つのか』という懐疑に陥りやすくなります。ルール経営に対する多くの経営者の態度が、そこに見えるのではないでしょうか。
しかし、そんな経営者でも《個人的には約束を繰り返している》はずなのです。つまり《決して約束の効果を軽視してはいない》ということです。そのため、まずは経営者や職場のリーダー達に『約束が効力を持つ背景』に気付かせる必要が出て来ます。

7.約束が効力を持つ背景とは?

さて、では《約束が効力を持つ背景》とは、どのようなものなのでしょうか。それは、冒頭の《面談の約束》を例にするなら、『午後7時に会うことの意味や重要性を相互に理解し、その内容を確認し合っている』という状況に他なりません。
もう少し踏み込むなら、組織内で《約束=ルールが機能する》ためには、組織メンバーが、多少の個人差はあっても、その《約束内容の重要性を共有》していなければならないということです。

8.約束の機能と内容の理解共有

つまり経営陣が、伝統的な《強要》型経営から《約束=ルール》型経営に移行するためには、《約束自体の意味》と《約束内容の重要性》を《社内で共有する方法》を知らなければならないということなのです。
そのためには、やや遠回りに感じられるかも知れませんが、経営陣でも現場担当者でもない《管理者やリーダー》が、日頃痛感している《現場業務を改善するための可能性や問題》に、経営陣が改めて目を向けるところから始めるのが効果的なのです。

9.ボトルネックを主役にせよ?

なぜなら管理者やリーダーが《上下の伝達役》にならなければ、経営陣には現場が見えず、現場には経営陣が捉えられないからです。中間管理者の果たす役割を、現場の監督者ではなく《上下のパイプ役》にしなければなりません。
そのための《効果的かつ効率的な方法》が、まず《現場管理者が持つ業務改善の可能性感覚や問題意識》を、経営陣と現場担当者が《共有》し始めることなのです。『ボトルネックを解消したいなら、そのボトルネックを主役にせよ』と言われる通りです。

10.ヒトの感性の後戻りは難しい

2025年秋にリリースした《考課者研修》は、その《第一歩》でしたが、2026年には、その《第二歩》の形成から始め、《中堅中小企業経営》や《大企業の支店や部門経営》を《ルール経営》に導く道筋を、より鮮明化して行きたいと考えています。
今後の組織経営は、上が下を《アメとムチでコントロール》するのではなく、《約束や企業文化の共有》によるのでなければ成り立たないと捉えるべきでしょう。パワハラ防止法やその解釈の行方には、今後紆余曲折があるかも知れませんが、経営陣や管理者層と『ヒトとしては対等』だという従業員意識の後戻りは難しいからです。



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