働き方改革は、今後紆余曲折を経たとしても、その基盤は大きく変わりそうにありません。それはこの改革が、もともと《社会意識の変化》に根差していると言えるからです。
しかし、社会保険労務士事務所のビジネスは、その《意識変化》に基盤を置き得ているでしょうか。今《再考》すべき時にあるようです。

1.“料理人”と“料理の先生”の違いがヒント

たとえば“料理人”がいたとします。シェフとか料理長と呼ばれる人です。しかし、料理人を志す人以外、誰もその“料理人”の指導を受けようとはしません。話も聞きません。しかも、支払う料金は“作ってくれた料理の対価”のみです。
その上、その“料理人”は、時々横柄な客のテーブルに呼ばれ、挨拶をしたり、料理の内容を説明したりすることを“強要”されるかも知れません。もちろん、それがどんなに手間でも、全ては“無料”で、感謝もされないことが多いのです。
それは、“料理人”“業務提供者”であり、作った料理を売るだけの人だからです。

2.専門性が低い方が尊敬されやすい現実…?

ところが、“料理の先生”は違います。テーブルに呼ばれるどころか、生徒は、その先生の学校に出向くのが普通です。しかも、料理を作ってもらうのではなく、出向いた先で“自分で料理を作る”のに、生徒は文句も言わず、授業料を支払って、先生に感謝します。
それは、“料理の先生”が“業務提供者”ではなく、“指導者”だからです。しかも、その際重要なのは、“料理”に関しては、えてして“料理の先生”より“料理人”の方が、1枚も2枚も上手だということです。つまり、“指導者”は、料理の腕がすごいから“指導者”になったわけではないのです。
ここが肝心です。そして、案外忘れられがちな“ポイント”なのです。

3.高度な業務請負人は正当に評価されにくい

社会保険労務士ビジネスも同様です。企業から《業務を請け負う》だけであれば、それは《請負業》であり、どんなにレベルが高くても、《指導者》のポジションには立てません。しかも、素人でも食べれば味が分かる料理とは違い、社会保険労務士事務所のレベルは、一般の経営者には、その内容も大変さも、 それほど深くは“理解できない”ものなのではないでしょうか。
業務を提供することを強いられる一方で、その内容を正当に評価されないとしたら、確かに割の合わない状況が増えるかも知れません。 しかも、ここに《なかなか解消されない社会通念》が横たわるため、話が余計に面倒になるのです。

4.ビジネスとしての士業視点を曇らせる通念

その《社会通念》とは、“指導者は高度な見識を持たなければならない”というものであり、そのため“指導には高度なノウハウが必要だ”というものです。そして、そんなノウハウ取得の面から、いわゆる“コンサルティング”つまり《経営指導》の勉強が始まってしまうのです。
しかし、それが《業務提供者》としての料理人が、更に料理の腕を磨こうとする時と同じ状況になってしまうと《指導者》への道が遠のく結果になるかも知れません。《指導者》への道は、決して料理の腕前、つまり《労務・人事の見識》だけでは歩み切れないからです。

5.専門性を素人にも使える見識に《再編成》

そこで、1つお考えいただきたいのです。たとえば“料理の先生”になるためには、どうすれば良いのでしょうか。それは、一流の料理を目指すのではなく、《素人》が、自分で作れる料理プログラムを作ることです。素人レベルに降りて、《料理の作り方》に取り組むことなのです。
同様に、社会保険労務士事務所も、むしろ専門見識を更に磨くのではなく、その専門見識を“素人が使える”ように“再編集”しなければ、《指導への道》つまり 《ビジネス成果を生むコンサルティングへの道》 は開きにくいということです。
そしてそれは、先生方が仕事を請け負うのではなく、顧客が《自分で手足を動かす》起点を作ることを意味します。

6.《コンサルティングへの道》が開けたら…

逆に《コンサルティングへの道》が開けたら、どうなるでしょうか。申し上げるまでもなく、事業ではプロでも、経営管理には素人の経営者に、《組織管理や人材指導等の視点》を身に付けてもらえるはずです。企業の経営管理技能が向上するのです。
そればかりか、特に素人は“自分でやってみて初めて高度技術のありがたみを知る”傾向があるため、教えてもらった人は、先生への感謝を深めるとともに、 指導に対する支払い(コンサルフィー)が当たり前になるはずなのです。つまり、専門見識ばかりに向かうのではなく《素人ができること》にも向かうから《コンサルティング》は成立すると言えるのです。
この考え方が社会保険労務士事務所業界には、まだ常識としては普及してはいないのではないでしょうか。

7.まずは現状の《視界》自体を変えてみる!

その背景には、余裕ができた社会保険労務士事務所が、“これから試験を受ける人材”を職員先生として採用するという現状があるかも知れません。 被採用者が専門見識に向けて受験勉強をする姿勢は、事務所全体を専門見識に駆り立てます。
あるいは、専門見識に向けて勉強を続けた先生が、事務所を開いてビジネスに取り組むに至ってもなお、専門見識“志向”を捨てられないからかも知れません。もちろん、専門見識自体がマイナスなのではありません。素人である“顧客”から遠ざかっていることに気付きにくい視界に留まることが問題なのです。

8.まず働き方改革の視点を変えた提案から

以上のような視点から、理論よりもまず、《顧客を動かす》実際発想を、働き方改革の継続テーマを課題にしながらイメージしていただく必要性を感じるようになりました。
たとえば就業規則でも、関与先の代わりに“作成業務を請け負う”だけなら、その重要性とは裏腹に、安価なサービスにしかならない危険が強いでしょうが、“教えるプログラム”にすると話は変わって来るからです。その教え方も、実は、それほど特殊ではありません。説明会でも対話形式でも、資料の送付の後の電話(通信)解説でも、有効性が蓄積して行くケースが少なくないのです。
そんな発想から、《士業先生が取り組むコンサルティング》をテーマに、様々な講座や実践キットを作成しています。今すぐ実践したい事務所の皆様は《提案ツール》として、これからじっくり考えたい皆様は《ケーススタディー》としてご活用いただきたいと思います。
競争は激化の一途をたどります。ぜひ《視点を変える》ところから、先生方ご自身の《事業革新》に取り組まれることを、お勧めしたいと思います。