働き方改革やコロナ禍、更にはデジタル化も、ビジネスに《生産性の向上》を求めます。それ以前に、利益拡大にも余裕増大にも、生産性の力が必要になります。しかし《生産性》とは、そもそも何をどうすれば、獲得できるものなのでしょうか

1.《効率》と《生産性》とは《どう》違うのか?

手際の悪い仕事を見て、私たちは『効率が悪い』とか『生産性が低い』と指摘することがあります。その際には、効率と生産性を同じようなものとして見ているわけです。
確かに共通する部分は小さくありませんが、生産性を《効率の視点》だけから捉えてしまうと、その本性を見失うばかりではなく、目前の《チャンス》をも取り逃がしやすくなるのです。

2.余裕の《創出》と余裕の《活用》ほど違う!

では、効率と生産性は、現実の上で《どう》違うのでしょうか。効率は、申し上げるまでもなく、たとえば、社会保険料の算定を《手作業》から《パソコン》に移すようなイメージでしょう。つまり、業務処理を簡潔かつスピーディーにすることで、時間の余裕を作り出すことを意味します。
ところが、そこで生まれた《余裕》を、ぼんやりと浪費してしまったのでは、意味がありません。 そんな時には、《機械化で効率は上がった》《ぼんやりしたため生産性は向上しなかった》と、言うべきかも知れないのです。

3.ある修理請負部門で…

たとえば、すぐに刃が傷ついて止まってしまう、バリカン型の芝刈り機があります。しかし、芝生には小石があり、その石をバリカンの刃が噛み込んで、刃が傷付くのです。その傷が深いと、刃にゆがみや裂傷が生じるため、安全装置が働いて、芝刈り機が動かなくなります。
年がら年中、そんな修理をしているAさんがいました。そのAさんの修理スピードは絶大です。しかも、刃の交換が必要になった時、それは保証外ですから有償補修になります。
本体を安く売って、インクで儲けるプリンターと同じ原理でしょうか。

4.手の遅いBさんの功績

ところが、もう1人の修理人のBさんには、修理にAさんの3倍の時間が掛かります。効率が悪いのです。ただし、その効率の悪さの要因は、Bさんが《いちいち故障の原因を確認している》からでした。
そして、ある日《小石を噛み込みやすい経路》を発見し、そこに小さなカバーをつける案を思い付きます。それは上司の計らいで、すぐに機器の設計部門に届けられ、商品改良に向けた具体的な研究が始まりました。その後の研究次第では、特許申請にまで至る可能性もあるようです。替え刃は売れなくても、より大きな価値が得られそうです。

5.生産性は《新たな価値の素》に目を向ける

《生産性》とは、Bさんのケースのように《新たな価値の素》を生み出す行為であり、Aさんのように《定められた仕事を早くこなす》ことではありません。もちろん、効率のよいAさんが、Bさんのようなアイデアに至ることもあり得るでしょう。
しかし、通常《新たな価値の素》の発見には《一手間》が求められることが多いため、効率主義者には《生産性の体験》が乏しくなりがちなのです。
手間を惜しむと知恵は逃げて行くからです。

6.社会保険労務士事務所内の業務でも…

たとえば社会保険労務士事務所でも、高年齢者継続雇用の法律改正に伴い、必要な就業規則等の改正や助成金の提案を、機械的かつ効率的に《こなす》人と、『高齢者を継続雇用した後の組織の士気はどうなるのだろう』という疑問から始まって、《高齢社員を始めとする従業員のモチベーション強化策》を考える(あるいは悩む)方向へ進む人がいるのではないかと思います。
前者は《業務=手間=早くこなして解放されたい》と考え、後者は《1つの業務=別の価値を生む素=観察しよう》と捉えるわけです。
そして後者は、たとえば前者には思い付かなかった『高齢化の中での従業員と経営者のモチベーション高揚』の役員研修を思い付くわけです。その研修は、それ自体が有料になるばかりではなく、給与体系や昇給昇格制度、業務形態変更による就業規則等の更なる見直し等、広く人事労務課題の提案機会を創り出すはずです。もちろん、一気に先に進まず《好ましい対価での労務顧問》契約で、関係を固める方法にも至りやすくなるでしょう。

7.効率追求を止めるよりも成果転用を考えてみる

その意味では、効率が非常に重要なテーマではあっても、生産性発想を《殺さぬ程度》に重視する必要があると言えそうなのです。
ただし、効率主義者の前者は、後者の真似をしようとはせず、『そうか、私が考える規則修正や過半数労働組合等との手続き方法は、群を抜いて効率的なのだ』と気付き、『よし、これで稼ごう』と思い付いて、《高年齢者継続雇用実務パッケージ提供》の提案書を作成しました。
効率の良い仕事を《有料業務》にしてしまったのです。さて、それは効率意識でしょうか、生産性意識でしょうか。《提案書作り》や《提案活動》に《一手間掛けた》という点で、生産性発想と言えるのではないでしょうか。

8.普通の業務がビジネスにも発展してしまう

生産性は、決して《脱効率》ではなく、効率的に仕事をしていようがいまいが、自分の仕事を《他で活かし》たり、《違う形で活かし》たりする方法を考える《一手間》で上がるものだと言えるのです。
そして、そんな《一手間発想》に立つと、社会保険労務士事務所で普通に行っている《業務》でさえもが、少しの成型と提案で、突然《有料業務》に化けることも少なくないはずなのです。負担でしかなかった業務が《有料案件》に化ければ、確かに事務所のビジネスとしての生産性は高くなるでしょう。
更に、そんな体験の蓄積から《関与先の事業や業務》を見るなら、《指導》したくなる案件が、どんどん増えて行くかも知れません。生産性は、少しの手間から次々に発展して行く可能性を内在していると捉えるべきものだと言えそうです。

ご参考教材

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〇 生産性を飛躍的に向上させる思考法(社労士事務所版)

ご参考教材2

高齢社員の継続雇用を有効に機能させる上で不可欠な《高齢社員を始めとした組織全体のモチベーションの維持高揚》をテーマにしたセミナーツール教材を作成しています。詳細は以下をご参照ください。
《高齢者継続雇用》セミナー実践キット

ご参考教材3

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〇 社労士事務所の普通のサービスを有料化する【3大ポイント】