働き方改革やハラスメントに関わる法律改正等への対応が一段落すると、《有料業務》を獲得しにくくなるという声を聴くことがあります。また、うちでは『人事制度等はやっていないから…』と言われる先生もおられます。ところが、そんな《感覚》が業務の有料化の《足かせ》になり得るかも知れないのです。
目の前にある《チャンスの芽》を見落としてしまいやすいからです。

1.無料だった水が1970年代から有料になった

『日本人は水が無料だと思っている』と、国内の居留地に住む外国人に言われたことがあったそうです。彼らは既に、明治時代の当時から《鉱泉水(ミネラルウォーター)》を買うことに抵抗がなかったようです。
一方、日本人が水を買い始めたのは、1970年代(昭和中期)頃にウィスキーの水割りのためのミネラルウォーターからだとされます。
その後、1990年代には《マンション等の貯水タンクの汚染》が問題になって、ミネラルウォーターの需要が高まり、1996(平成8)年に《国産小容量ペットボトル》が解禁され、今の有料水に至っています。

2.レストランが出す水の無料と有料との境目

ただ、今でもレストラン等に行くと、無料の《水》と有料の《ミネラルウォーター》が併用されています。その有料と無料の別れ道はどこにあるのでしょうか。そこには、社会保険労務士事務所業務の《有料無料の分かれ目》のヒントがありそうなのです。
ただ、水の有料と無料の境目も、実ははっきりしていません。ある地域のレストランで、あまりにもおいしい《おしゃれなグラス入りの水》が無料で出されていたため『気前がいいね』と喜ぶと、『浄水器を通した水道水です』と言われたことがありました。《味》という品質は有料化とは無関係なようなのです。

3.有料業務は必ずしも品質に左右されない?

水が有料か無料かを分ける境目は、味や透明感等の品質ではなく、たぶん《メニューに記載されているかどうか》でしょう。上記と同じ店で、サンペレグリノ(イタリアのミネラルウォーター)は、500mlボトルが650円でした。メニューにそう記載していたのです。
極端で不適切な話ではありますが、その500mlのボトルに《浄水器を通った水道水》を入れて来ても、顧客には違いが分からず、満足して飲んだかも知れません。
もちろん、だからと言って、先生方に《偽物のサンペレグリノ》を持とうと申し上げているわけではありません。

4.業務の有料化は決して高度な課題ではない

申し上げたいのは、《業務の有料化は決して高度な課題ではない》ということです。そこには、サンペレグリノが示すように、最低限《商品としての存在感》《価格の提示》があれば良さそうだからです。
もしかしたらビールより高額なこともあり得るサンペレグリノでも、アルコールを飲まない人やドライバーは買うかも知れません。もちろん、そのブランドを知らない人は『水が650円?』と驚くでしょうが、それでもテーブルの上に《案内》があると、試してみたくなりそうなのです。
逆に得体の知れない水をグラスに入れて来て、ウェイターが『これ300円です』と言ったら、客は怒りそうです。たとえそれが、どんなにおいしくても…。

5.目に見えるものなら価格を付けるだけで…

ただ、おしゃれな瓶に入った水という《目に見える》ものなら、存在感と価格提示で《試す》顧客も出るかも知れませんが、先生方の《専門業務》は、そもそも目に見えません。見えないなら話して聞かせようとしても、その内容や価値を聞いただけで、関与先の経営陣に理解できるとは限りません。
内容や価値をイメージできない先に『費用は○○万円です』と提示するなら、怒り出さないまでも、相手にはしてくれないケースの方が増えそうです。
実は、士業業務有料化の難しさは《ここ》にあると言えるのです。

6.ノウハウや見識を《見える化》してしまう

その《ここ》とは、《目に見えないノウハウや見識は、試してみたいとさえも思わせない》という現実に他なりません。しかも《価格水準》の問題ではないため《安売り》しても効果がないのです。
では、どうするか…。その答は、申し上げるまでもなく、ノウハウや業務を《目に見えるもの》にするか、《イメージできるものにする》ことです。
話では見えなくても、たとえば給与体系見直しのために《現状の問題点を整理したサンプル資料》なら目に見えます。イメージできるものとは、《事例の紹介や経営者向けのセミナーや資料を用いたマンツーマンのプレゼン》でしょう。もちろん、問題提起をした後の《役員会研修》でも、印象付けることが可能です。

7.たとえば給与体系の見直しを例に挙げると

更に、給与体系の見直しを紹介する時、どんな企業がどんな事情で何を問題視し、それを体系変更でどう解決したのでしょうか。そんな《事例やサンプル:秘密保持義務に抵触しないように配慮したもの》があればイメージは更に鮮明になり得るでしょう。
そして、何をどう検討したら問題が発見できて解決に至るのかという《検討の道筋》を示せば、先方経営陣が《どうすべきか》を一層鮮明にイメージできるはずです。『いや、そちらの方が難しくないか』とも思えますが、難しく考えるかどうかは《視点》の違いだと思います。

8.正面から提案せずに《たとえ話》で語る!

たとえば《給与への社内従業員の不満》に関する相談を受けたり、不満自体を聞いたとします。その時、《諸手当を見直すだけでも不満の一部は解消できる》と先生が感じたとしたら、その《諸手当変更法》について、相談に来た会社をモデルに《こんな問題があっても、こう解決できる》という話を組み立てます。
それを『御社ならこうすればよい』とは言わず『こんな風に解決した例もあります』と、他社事のように言ってみるのです。これは《直接的に話さずにたとえで話をする》という提案手法の一つです。
自社の問題は複雑ですので、解決法の提言自体に信ぴょう性を感じにくい経営者でも、一つの事例として客観的に捉えることができれば、《給与体系変更の効果可能性》を考えやすくなり得るのです。

9.有料化発想で無料サービスの回避が容易化

問題特定とその解決のイメージという《ノウハウの存在感》が事例やサンプル等で明確になれば、その支援の際の費用が明示されるだけで《有料化》は容易になるはずです。もちろん、どんな経営者でもオファーに応じるとは限りませんが、オファー(提案)に応じる経営者は出るでしょうし、応じない経営者には支援サービスをする必要がなくなるという点で、無料サービスを避けられるメリットが生まれます。
有料オファーをしないまま、問題と解決の方向性を経営者に示唆してしまうと、『ああ、総務部長に話しておいて』等と言われた時に、無料サービスを断りにくくなるかも知れません。

10.問題と解答の事例及び検討手順と価格提示

こんな視点に立つと、たとえば《人事制度》とか《採用支援》とか、《就業規則》とか《社内規程》等と大きな構えを持たなくても、《関与先の問題》と《自事務所にできる対応》を念頭に置く癖をつけるだけで、社会保険労務士事務所の普通の業務を有料化する道が、多々見つかるのではないでしょうか。
しかもこの視点なら、たとえば『わが事務所では人事制度はやっていない』と考える必要はなくなりそうなのです。それがどんな分野のテーマであれ《問題事例》《回答事例》《検討手順》《目安費用》が揃えば、有料化ばかりではなく、どんな分野でも有効な支援提案ができそうだからです。

11.業務を具体的に捉え直す時に生まれる効用

それに、そもそも《人事制度》等のテーマは非常に幅が広く、たとえば《新規採用者の労働条件の文書化》という、一見《作業》に見えるような業務でも、それは《人事制度》の一環であり、《採用支援》の重要アイテムであり、《就業規則》の骨格提示であり、場合によっては、就業規則以外の《社内規程》が織り込まれたものでもあり得るからです。大きなテーマではなく、個々具体的な業務を捉えるのです。
社会保険労務士事務所業務を、人事制度等の《テーマ》で括らず、《発見できる問題》と《支援可能な業務》という《個別かつ具体的な括り》で捉え直すと、先生方の普通の業務の中に、有料化可能なものがたくさん見つかるのではないでしょうか。

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