様々な組織の中で、経営者の発想は、それ程には変わらぬ中で、部下の意識は急速に変化しているのが、今日の特徴でしょう。その両者の板挟みとなる管理者が、意欲喪失や心身障害に陥りやすくなるのは当然かも知れません。
しかし、だからこそ今、経営者に《考えさせる》べきことがあるのです。

1.自分で考えた命令には工夫余地がある

部下が、現場の管理者の指示に従わなくなったら、管理者はどうすべきなのでしょうか。その指示内容を、管理者自身が考えたものなら、現場が《従える》ように見直すこともできるかも知れません。指示者当人がその気になれば、工夫の余地が見え始めるということです。
ところが、その指示内容が《経営者》や《本部長的立場の人》からの伝言なら、管理者の工夫の範囲は一気に狭まってしまいます。

2.管理者自身が考えたのではない命令は

たとえば、経営者から『週に100件の新規見込み先メールアドレスを担当者に集めさせる』という指示を受けた営業部門の管理者なら、未達の部下にどんな対応をとれるでしょうか。機転が利く管理者なら、『うん、これだけでもいい。数ではなく質でアドレスを集めたと言えるように、実績を出してくれ』等という形で、部下を営業活動に動機付けることも可能かも知れません。
しかし、管理者が部下に対して『未達じゃ困る』と言うことしかできないなら、営業担当者は苦手なメールアドレス集めに多大な時間を費やすだけで、営業活動をしなくなる恐れさえあるのです。

3.管理者ストレスを高める上からの命令

あるいは生産現場で『製品の不良率を5%から3%に引き下げる』よう、経営陣から命令を受けた現場管理者は、まず何をどうすれば不良率を下げられるのかに迷うはずです。その迷いの中で、不良を多く出す人あるいは不良率が高い機械の担当者を、精神的に鞭打って不良率を下げようとするかも知れません。
先の営業部門の例と同様、うまく行っても行かなくても、現場の管理者は《非常に激しいストレス》と向き合うことになるでしょう。そんな事態を避ける手立てはあるのでしょうか。

4.命令内容には必ず《根拠》があるはず

たとえば、その会社で、社長や経営陣あるいは本部長的な役割を担う人たちが命令を出す時、『命令には必ず根拠(又は想定や意図)を付けること』という社内規程があれば、管理者の悩みは小さくなる可能性があります。
もしかしたら、見込み先のメールアドレスを100件集められないような営業担当者には、最終的な成果獲得が難しいという《データ》があるのかも知れません。もしそうなら、まずは当面の販売活動を少なくしてでも、100件のメールアドレス集めをクリアさせるという現場指導方針が生まれ得ます。

5.根拠が示される効用はどこにあるか?

製品の不良率低減課題でも、製造本部長が『不良の原因を明確につかめたら、それだけでも不良率は現在の6割になる(5%の6割は3%)』と想定あるいは経験則上予測するなら、現場管理者は『不良の原因探索を怠らない指導』ができるでしょう。
そして、実際に活動した結果、本部長の想定や予測の妥当性が判定され、目標の修正が行われるかも知れません。あるいは、本部長自ら現場を査察し、不良率低減行動の不十分さが指摘されるかも知れないのです。

6.人事労務課題とは直結していなくても

『命令には根拠を付記すること』という社内規程(社内のルール)は、人事労務と直接には関係しません。しかし、それ故に《労働法等との整合性》を気にしなくても作れるものでしょう。そして、そんなルールが作られて実行される中で、社内活動全体が、徐々にでも《ルール化》して行くなら、人事労務に関わる経営陣や従業員の意識も、大きく変わって行くはずなのです。
少なくとも、組織を健全に動かす原動力はアメでもムチでもなく、適正化されて行く可能性を秘めたルールだという認識が生まれやすくなるからです。

7.社労士事務所の仕事は制度に限らない

そんな意識が組織に浸透して行くなら、組織の規模を問わず、就業規則に留まらず、給与規程や旅費精算規程等の諸規程、あるいは管理職登用制度や個人業績評価制度へ発想が向きやすくなるでしょう。いきなり昇給昇格制度を提案する時と比較するなら、その可能性の差は歴然としていそうです。
つまり、まずはルールを作ることによって《成果を出す》という体験から、組織マネジメントを導いて行くことが肝要だと申し上げたいのです。

8.ルールを定めるとトラブル源になる?

もちろん《命令には根拠を付ける》というルールを作ると、命令者側からは『面倒だ』という不満が上がる一方で、現場からは『根拠とは言えない根拠を付けてルール違反を逃れようとする命令者がいる』という突き上げが起こるかも知れません。
あるいは『社長の命令が最も根拠に乏しいのではないか』という形で、社長自身が追い詰められることもあり得るでしょう。そんな波風を、敢えて起こす必要があるのでしょうか。

9.波風にならない潜在的問題の方が怖い

それに対しては『表面に現れない問題や不満の方が怖い』と指摘すべきだと思います。経営者や命令者が『部下がどんな風に命令して欲しいのか』を知ることは、まさに実行力のある組織を作る第一歩なのです。部下に《できる》あるいは《必要以上の苦行を強いない》命令をするような組織になり得るからです。
事業活動には構成員の《訓練》は欠かせませんが、その訓練には合理性がなければ成果は出ません。それは既に《ブラック企業》が、身をもって証明していることだと思います。

10.人事労務発想から組織マネジメントへ

社会保険労務士事務所のビジネスも、今のところは厚生労働省が生み出す《法改正対応のための業務》で満杯かも知れません。しかし、それが一巡する頃には、新たな取り組みを始める必要性が生まれるでしょう。その時、経営者に『うちの規模では規則も制度も必要ない』と言わさないように、『少人数でもルールを求めるのが現代人の特徴なのだ』と知らしめておく必要があります。

11.社会保険労務士事務所の将来チャンス

今や、たった2人の夫婦でも、家事や子育てについて《ルール》を定めるケースが増えているのに、少人数であるとは言ってもビジネスに携わる集団に、規則も制度も必要ないと言うのは、あまりにも現代感覚からかけ離れているとは言えないでしょうか。
そして《ルール》を作り《ルール》を見直しながら実利を求めることが、組織マネジメントの基本だという感覚の経営者が増えれば増える程、社会保険労務士事務所のビジネスチャンスは大きくなると申し上げたいのです。

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