(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
1.話しても話しても伝わった気がしない?
社会保険のこと、給与体系のこと、社内規程のこと、人事制度のこと、諸手続きのこと、ハラスメントや労働時間のこと…、何を話しても《企業の担当窓口や経営者に真意が伝わった気がしない》ケースは、少なくないのではないかと思います。
そんな時、どうすれば道が開けやすくなるのでしょうか。パワハラ問題を例にして、考えてみましょう。
2.法的な注意喚起では止まらないパワハラ
上司が部下に《してしまう》パワハラは、単純なルールや注意喚起でなくなるものではないでしょう。精神状態が関与する課題では、上司のみならず、部下の《心=感情の働き》と《対処能力》が問題になるからです。
腹が立つ部下にでも、上司に指導能力があれば《上司自身の感情》を、ある程度でもコントロールできるでしょうし、部下に《聞き取り能力》があれば、たとえ上司の言動が感情的でも、その中から真意を読み取って、冷静に対処することができるでしょう。
3.状況への《相対的な未熟さ》が遠因に!
つまり、特殊なケースを除いたパワハラは、《上司と部下の双方》が、ビジネスマンとして未熟な故に起こる現象だと捉えるべきなのです。しかも、未熟さは《絶対評価》によるものではなく、仕事の《難易度》や《量的過剰性》等との《相対》の中で決まるという認識も重要です。
上司にも部下にも、難しい仕事は、それ自体が熟達度を超えるストレスですし、簡単にできるはずの仕事でも量が多過ぎると、対応力という熟達度が限界に達するからです。
4.本来は《業務力や人間力》の強化が必須
この《未熟さ=熟達度の限界》に、経営陣や現場の管理者が目を向けなければ、パワハラがなくなることは期待できません。
パワハラは《注意事項》でなおるものではなく、むしろ《業務技能や人間性の訓練》で解消されて行くものだと言えるからです。もしそうなら、パワハラ解消には《とてつもない時間》が掛かりそうです。
そのため《長期的取り組み》と並行して《短期課題》が重要になって来ます。
5.もっと短期的な対応策を捉えるならば…
パワハラ解消の《短期対応視点の第1》は、《適材適所》ならぬ《適材適業》の視点でしょう。それは熟達度を大きく超える、つまり『どうすればよいか分からない』という業務を強要しないことなのです。
もちろん、簡単にできることばかりだと、私たちはむしろ《飽きる》というストレスを抱きやすいため、現場にはちょっと難しくとも、《経営陣や現場のリーダーが具体的な示唆ができる業務》の指示に留めることが、第1の目安になるということです。
6.現実的には第2短期対応視点の方が早い
しかし、現実には《適材適業》等とは言っていられない時があります。経営陣ですら《どうしてよいか分からない》ことを、現場に委ねる必要が出るケースも、決して少なくないからです。
そんな時には《短期対応視点の第2》として、《指示者が率直になる》ことが重要になります。つまり『これは私自身にも困難な仕事だ。コミュニケーションをとりながら、一緒に頑張って行こう。そのためには現場のトライと報告が欠かせない』という姿勢に徹することです。
7.それでは業務に支障が出ると思うなら…
『そんなことでは業績獲得に支障が出る』と感じるとしたら、それこそ《時代錯誤》でしょう。今は現場に無理を強いるのは、パワハラのみならず《心の病気》の原因を作り出すだけだからです。《頑張れば何とかなる》という事業環境は、昭和と共に終わってしまいました。
さて、この話を経営者に《どう》伝えるべきでしょうか。
8.以上の《話》をどのように組み立てるか
全てが同様だとは申せませんが、《伝える話》は《考えた内容》と逆順にすると、話しやすくなるケースが少なくありません。テーマは《パワハラ防止》でも、いきなりテーマを論じないということです。
たとえば《①今の事業環境では、頑張っても如何ともしがたいケースが普通になった》といところから始めるわけです。もちろん事例を示すのが効果的でしょう。そして《②従業員に頑張りを強いざるを得ない時は経営陣からの対話を心掛ける》ことが肝要になる一方で、《③業務遂行に関し助言できることは助言を怠らないこと》が重要になると伝えます。
9.話の結論と《真っ先に必要》な行動は?
更に、技能や精神力の《④熟達度を超えることが、パワハラや反抗言動等の異常行動を誘発する》ことを指摘し、現代のような環境下では《⑤自社体制に適合する業務内容で稼ぐ事業の形を考える》のでなければ、組織力は保てないと伝えます。
そして、ある程度でも《趣旨を理解》した後で、真っ先に必要な行動は、パワハラを現代環境下での組織の悲鳴と捉え、その悲鳴を正確に聞き取ることだという類の《最初の一歩》を示すことなのです。
10.社内業務の進め方ルール作りも貴重手段
もちろん熟達度やコミュニケーションばかりに頼るのではなく、仕事の進め方に一定のルールを導入して、社内に『私は誰かの恣意的な命令で働いているのではなく、皆で共有しているルールに従って働いている』という感覚をもたらすことも重要です。
そうした《ルール作りの示唆》があれば、《悲鳴を詳しく聞いた後でどうすべきか》が想像しやすくなって、経営者の背中を押す要因にもなり得るかも知れません。
いずれにしましても、《話し方》には、一般の会話であれ、交渉であれ、勉強会やセミナーでのプレゼンであれ、ある程度《方法論=ノウハウ》があるものだと言えるのです。
