デジタル化(クラウド化)の流れの《途上》にある今日、社会保険労務士事務所には、かえって煩雑な業務が増える一方で、従来業務の《価格》には下げ圧力が強まるという傾向が否めなくなりました。
しかも、補助金や助成金が一巡する《アフターコロナ政策》の中では、臨時収入にも期待できなくなりそうです。しかし、そんな中でも、むしろ《厳しい流れを逆手にとる戦略》があると言えそうなのです…

1.20年の時を経て現れ始めた大きな業界課題

社会保険労務士事務所の《手続き業務》が、全てシステム化され、間違いや不適切性がシステムの中で是正されるようになると、そもそも《企業が適正な手続きを守らないために国家資格を作った》という社労士業務の根幹が揺さぶられることになります。
従来の《脱1号業務》課題とは、その影響度は比較にならないでしょう。しかも今、変化の渦中にあって多忙を極め、先行きを考える時間さえ持てない…としたら、広告解禁(2002年4月)をはるかにしのぐ大課題に、社会保険労務士業界全体が直面していることになります。

2.独立系事務所の次の展開ベースの基本視点

しかも、資金や人材が豊富でシステムにも明るい《大型事務所》が既に登場し始めており、今後は、かつて個人商店を凌駕したスーパーマーケットのような勢いを発揮しそうなのです。そんな中で、独立系の事務所は、どんな《戦略》をとるべきなのでしょうか。
もちろん、今なお個人商店と大型店が共存している地域もあり、個店としての特徴を失わない限り、過大な心配は必要ないのかも知れません。しかし、《個店》としての特徴を再発見し、それを更に強化するためには、《思考や試行》の時間を作ることが必須になるはずです。
そしてそのためには、煩雑さの解消と当面の収入確保の両方をもたらし得る《戦略》が欠かせません。

3.事務所業務のシステム化よりも効果的方法

しかし、どうすれば業務を効率化しながら生産性を高めることができるのでしょうか。個々の事務所もシステム化に取り組むべきなのでしょうか。
否、システム化の方向性では、巨大システムを作れる主体には太刀打ちできそうにありません。システムは大きいほど、個々の利用者には安価になる傾向があるからです。
そのため、今必要な視点は、デジタル化の流れには逆走せず《先行きの準備のための時間稼ぎ》をしながらも、同時に当面の収入を確保する方向に、一歩駒を進めることです。
ただ、そんな方向性があるのでしょうか。段階的に捉えて行くなら、道は開かれるはずです。

4.将来には失いそうな業務の特別な生かし方

そこで、敢えて《今後失いそうな業務》に目を向けることから始めます。つまり1号業務のみならず、給与計算代行や助成金の手続き代行も含め、およそ《業務代行》と名の付くものに着目してみるわけです。《業務》はシステム化やWeb化がしやすいため、将来は《企業が自ら実施》できるようになる可能性が強い分野だからです。
そして、思い切って『どうせ失うなら、積極的に企業に渡してしまう』方法を考えてみるのです。さて、そこに、どんなビジネス源があるのでしょうか。
結論を急ぐなら、そこで得られる新たな収入源は、初期の《教育料》と軌道に乗った後の《助言・顧問料》です。

5.社労士業務の企業への移管を想定すべき時

クラウド化が進むなら、企業が社会保険関連の手続き等に取り組むことも、《慣れる》なら簡単になるでしょう。自社内からネットによる電子申請も常識になるからです。社会保険料の計算でも、企業が適切なシステムを使って済ませてしまうようにもなり得ます。
しかし、それに《慣れる》までは教育が不可欠です。そして、社会保険労務士事務所はその《教育者》として、当面の間《教育料》を得るわけです。守ろうとしても失う業務なら、少しでも収益にするばかりではなく、自力で手続きができる関係先を増やすことで、他事務所からの進出を許さない関係も構築できそうです。
しかも、教育関係ができた先には、各種手続き業務に関わる助言や相談のみならず、更なる関係が生まれる可能性も出て来るのです。

6.具体的に内実を知ることで見えて来るもの

その更なる関係は、企業の内実が以前よりも具体的に見えるところから始まります。外から、あるいは遠くからでは見えにくい組織内の問題が、関係者の固有名詞まで含めて見えやすくなるということです。
たとえば、ハラスメント問題でも、事件の結果だけを追う時と、その実態を実感する時とでは、その対応姿勢が根本的に変わるでしょう。それは給与体系や人事評価、あるいは定年延長や昇給昇格の《ありよう》の中にも出て来るはずなのです。
つまり、現制度の問題点等を外から文面で指摘しながら改善提案をするのではなく、制度であれ組織運営法であれ、組織実態の中で具体的な提言や提案をする《基盤》が出来上がるということです。
組織実態からの改善提案は、システムではなく《肌で感じ》ながら入る世界です。

7.ノウハウ完成度は《決め手》にならない?

実態に即した《発想の転換や制度の改善》は、コンサルティングの中でも微妙なもので、ノウハウの完成度が高いから成功するというものではありません。一見、制度としてはレベルが低いと感じる内容でも、その企業の経営陣が《うまく使える》モノであれば、その方が組織運営を円滑に進めやすくなるからです。
時々『あの会社は経営者のレベルが低い』という指摘がなされますが、それは、その企業に見合わない(高すぎる)レベルの仕組みを提供しようとしているからかも知れません。企業は社内制度によって稼ぐのではなく、働きやすい環境によって行動しながら稼ぐ存在だと捉えるべきでしょう。
その意味では、高度な発想を押し付けるより、レベルに見合った制度を、経営陣と一緒に考える方が、より《コンサルティング》に近いのです。そしてこれは、ノウハウに誇りを持つ大手よりも、地域の事務所が圧勝し得る分野の1つだと思います。

8.当面の収益源にもなり得る貴重な捨て駒!

従来の基幹業務を《捨て駒》に使いながら、当面の収益源を作り、更に新たな勝負の《場》を作ると捉えるなら、今は、煩雑な業務から抜け出して付加価値の高い業務への移行を《段階的かつ計画的》に捉える好機なのかも知れません。少なくとも、社会の潮流が後押ししてくれるのですから、流れに乗って、想定以上の前進も可能かも知れないのです。
2023年は、そのための具体的な方法を、皆様とご一緒に考えるスタートにしたいと考えています。
地域には、その地域特性と地域の企業を深く理解した指導者や支援者が必要ですし、地域企業を生かし続けるだけではなく、更に活性化させて行く道筋は、地域全体の浮沈をも左右するものになりそうだからです。