経営に不可欠な視点から《ルール経営》を再考

法の番人感覚とは異なるルール支援スタンス
月例情報発信会員の先生方には、月刊HM通信:2026年4月号でお伝えしたことに類似するのですが、ここでは通信内容とは少し異なる視点から、《今日的なルール経営》の不可欠性と方向性を、改めて捉えておきたいと思います。

(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)

1.法律よりもルールの方が範囲は広い

たとえば、法(Law)を『国家の権力構造の下で定められた秩序やルール』と解釈するなら、それとの対比的なニュアンスで、秩序やルールの中には権力構造が関与しない『私的な秩序やルールがある』と理解できます。
簡単な言い方をするなら、秩序やルールは、《法》よりも多分、相当広い分野を担っているのです。そこに、社会保険労務士事務所ビジネスへの《3つの問い掛け》が生まれて来ます。

2.社労士ビジネスへの問い掛けとは?

その3つの問い掛けとは、『①法以外の秩序やルールは社会保険労務士ビジネスにどう関係するか』というものであり、関係があるとすれば『②それは、今後の社会展開の中で、先生方のビジネスにどのような可能性をもたらすか』というものです。
更に言うなら、『③そもそもルール経営の具体的内容を、経営者がどう捉えているか』という問いも非常に重要になるのです。

3.3つの問い掛けの回答に見る温度差

第1の問い掛けの回答としては、既に法律が規制の範囲外とする内容を、就業規則や人事制度に織り込むという行為あるいは理念指導や安全衛生指導等で、先生方は『大いに秩序やルールに関係している』と言えます。
しかし、第2の問い掛け対しては『ルールの働きへの企業経営上の期待感は、今のところ、高いとは言えない』と言わざるを得ないかも知れません。
そして、その理由が第3の問い掛けの《経営者の捉え方》にありそうなのです。なぜなのでしょうか。

4.経営はルールではなく命令で成立?

経営者の捉え方が理由になるのは、歴史的な経営が《命令》によって行われていたからだと思います。特に、命令が社内の隅々にまで届きやすい中堅中小企業では、『時宜に応じて適切な命令を出せば、それで経営は円滑に進む。むしろ、法律やルールは、その円滑な命令を邪魔するものでしかない』として、広い意味での《ルール経営》のみならず、就業規則や人事制度も《形骸化》していたとも言えそうなのです。
しかし今、その《流れ》を変えるべき時、あるいは変えざるを得ない時が来ているのです。

5.昭和末期からあった命令経営終焉の兆し

流れを変えざるを得ない理由は、時宜に応じているとしても適切な命令を下す》ことが難しくなったからです。
実は昭和の末期から《そう》でした。それが21世紀に入り《社内トラブルの頻発化》に司法(裁判)が介入するようになって顕現化し、2022年4月以降に、中小企業にも適用された《パワハラ防止法》によって、法の直接介入が行われるようになりました。
そして、《従業員が納得しない命令の有効性は法律が阻止》する基盤のようなものが形成されてしまったのです。事実上の《命令経営》の終焉だとも言えるかも知れません。

6.自我の時代の到来がもたらした影響

ただ、なぜ《命令》が現場で疎んじられるのでしょうか。その理由は様々でしょうが、敢えて絞り込むなら、企業現場にとっては、経営トップの命令は『朝令暮改と感じることがある』し、長やリーダーの命令は『自分の立場保全のためだという印象が残ることが多い』からだと言えそうです。
私たちの社会にも『理不尽に見えるものには従う必要がない』という通念が、育って来たのです。国や組織よりも《自分》を尊重する社会風潮の高まりです。

7.パワハラ防止のベースにある説明責任

だから命令に《根拠》と《納得できる説明》を求めるようになったのでしょう。国政の中でも、21世紀直前から《説明責任》という言葉が叫ばれ始め、それが2001年4月施行の情報公開法で、社会通念化しました。
説明責任の中で働く行政官が《民間の命令経営》にも否定的になるのは、ある意味では《当然の帰結》なのかも知れません。パワハラの定義を過剰に感じるのは、民間が行政よりも20年《遅れている》からかも知れないということです。

8.それでも前向きに捉えられる《ルール経営》とは?

そうした事情の中でも、今後のために、この《ルール経営》を前向きに捉えるなら、そのイメージは、どのようなものになるのでしょうか。
非常に卑近な例で捉えると、たとえば始業時間が8時半の企業で『定時には、在宅勤務を含め、自分の席に着いていること』という社内ルールを定めたとします。するとたとえば、経営陣が朝8時半に一斉にメールで緊急告知をし、関連資料のダウンロードを命じた』ような時、『すみません。今席にいないので、後で確認します』とは言いにくい状況を作り出せるのです。
そして、経営陣内の情報発信者は《必ず全員に届く時間帯選び》に悩まずに済みます。

9.《ルール経営》が生み出す効果イメージ

そこには2つの効果が生まれます。その1つは、8時半の着席ルールで《命令を出しやすくなっている》ということです。
そして、2つ目として、その着席ルールに『指示等の発信者は、その内容に関して質問を受け付けると共に、その際のQ&Aを可及的速やかに社内公開しなければならない』というルールを置くと、《命令の趣旨が組織内に浸透しやすくなる》分、業務の生産性が上がるという効果が生まれやすくなるのです。

10.ルール経営は命令阻害要因ではない?

この《着席ルール》が、『命令は文書で行うこと。緊急の場合は、文書は命令後の作成でもよい』というルールと共に機能するなら、朝令暮改の疑いは晴れやすいでしょうし、たとえ内容が朝令暮改だったとしても、Q&A公開で、その理由を説明できるようになり得るのです。これは、デジタル時代の効用の1つでしょう。
つまり今、一見《命令経営を否定》するかのようにも見えた《ルール経営》は、他者に懐疑を抱く傾向が強くなる中で、社内命令を円滑に進めて、業務の生産性を上げる方向に活用ができるということです。逆に言うと、この《命令の円滑化》と《組織業務の生産性向上》が、《ルール経営》が担うべき中心テーマになるということです。

11.ルール経営の違反者は処罰すべきか?

ただ《ルール》と言うと、違反者の処罰を問題にしたくなるかも知れません。着席義務を怠った従業員を《どう処遇するか》です。
しかし、命令が録音や文書の形にできるなら、8時半に着席していない従業員には、《誰それが電話連絡するというルール》を設けることで、ルールを守らせるための罰則の必要性が小さくなり得るでしょう。罰則ではなく《ルールでルールを守らせる》からです。

12.組織の《タガ》は人事考課で締める!

それでも遅刻が頻発したり、《誰それ》が連絡を怠ったりするなら、今度は《人事考課》で対応できそうです。人事考課も《社内ルール》です。
今、従来の《命令経営》を、個人的な納得を求める《社会意識の変化》に合わせて《有効化し促進する》ために《ルール経営》があると捉えるなら、これは社会保険労務士ビジネスが《直接的に経営を指導・支援》する重要なテーマに育って行くとも言えるのではないでしょうか。
社会保険労務士事務所の社会的役割とビジネス可能性は、今後多様な形で大きくなって行くと言えそうなのです。

13.今後の本サイト方針として…

このサイトでも、今後は改めて《命令の有効性と業務の生産性を高めるためのルール経営》の指導や支援の方法を、具体的に取り上げて行こうと考えています。

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