ある経営者の気付き:パワハラ克服の真相

《人》が最も嫌がることと歓迎すること
パワハラは、言動の《傾向》として取り上げられることが少なくありません。たとえば、罵倒や無理な命令が問題になるということです。しかし、ある経営者は『パワハラ問題の根はもっと深いところにある』と言われるのです。そして、『その根を直視しなければ、今後の組織運営は一層困難になる』とも指摘します。その《根》とは…

(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)

1.同じ言動でも受け手によって違う

同じような指示を、上司から出されても、『部下によって受けとめ方が違うのは何故か』と考えた経営者がおられました。一時、『それは信頼関係ができているかどうかによる』という見解を聞き、その経営者は『そうかな』と思ったらしいのですが、今度は『信頼関係って何?』という、更に深い疑問が湧いたと言われるのです。
そこで、部下の1人を呼んで『君は(上から)きつい言い方をされているようだが、問題はないか?』と、思い切って聞いてみたのだそうです。

2.部下の反応はポジティブだった!

すると、その部下は『特にきついとは思いません。私が出来ていないところですから』と、にこやかに答えました。そして『社長は、パワハラの心配をされているのですか』と、逆質問されました。
その質問に、社長は『君たちにとって、良き指導とパワハラの境界は、どこにあるのか分からない』と、率直に問い直したのです。

3.自分を理解した上での指導の実例

その部下は、しばらく考えて『(上が)分かってくれているかどうかだと思います』と答えました。その担当者の上司は、部下の優れた部分や欠点を《よく理解》しており、『得意を活かす方向で指示や叱責を出してくれている』と言うのです。
たとえば、取引先からのクレームに際して、『一度だけ、申し訳ございません、詳しいお話を聞かせて頂けますでしょうかと謝罪姿勢を取り、その後は《事実》だけを淡々と追え』という指示を出します。

4.能力発揮を失敗しない道筋の提示

そして、その上司は更に『感情的であれ冷静であれ、相手が事実を話してくれたことに謝意を示し、よく調べてご連絡しますと言え』と続けるのです。
その部下には、かなり《完璧主義》的な特性があり、取引先のクレームの中に、一つでも誤解を見つけると、その修正をしたくなる《性癖》があるようなのです。上司は、その性癖をよく知っており、自分の完璧主義を対話相手に《押し付けない》方法を教えてくれると言うのです。

5.問題を解決する自動販売機って?

その一方で、その上司は部下の《事実探究能力》への信頼は深く、以前、その部下のことを『問題解決の自動販売機だ』と言っていたことを、経営者は思い出しました。その時は冗談として聞いていましたが、それは『事実というコインを入れれば、必ず解決策が出る』ということだったようなのです。
しかし、一旦《完璧主義的感情》が目を覚まし、《何が事実かの主張し合い》が始まると、《販売機》は十分に機能しなくなります。

6.部下の強みを引き出す厳しい言葉

経営者が《きつい言い方》を心配した件では、上司が『感情的になるな』と叱った時のようでした。ところが部下は、その叱責を『感情的になるな。(そうなってしまったら、君の能力が生かされない)』というニュアンスで聞いたのです。
その時、社長は『信頼関係という漠然とした一般論が意味するところが分かった気がした』と言われます。

7.関心を深めることから全てが起動

職場での信頼関係とは、少なくとも《上司が部下の能力を具体的に知っている》、つまり《こんな方向性で行動すれば成果が出やすいと分かっている》一方で、部下は《上司が自分の良い部分を引出そうとしてくれる》と思える《双方向性》の関係を指すと『理解できた』ということです。
そして、そんな信頼関係が形成されるためには、まずは《①上司が部下の働き方に関心を持つこと》が先決になります。そして、その関心が観察に繋がり、その観察結果の蓄積から《②部下の優れた点と未熟点を把握する努力》が求められるのです。

8.部下に伝わるべき上司の《思い》

更に指導の際にも、《③欠点を直すよりも、優れた点の活かし方を考える》ことが重要になります。もちろん欠点を直すことは重要ですが、それは『当人がその気にならなければ実現しない』からです。上司が指示によって直せるものではありません。
そして、その①②③が部下に伝わったところに《信頼関係》が芽生え始めるということなのです。

9.職場の信頼関係の負のスパイラル

業績責任や対外責任を負う管理者やリーダー層は、心の余裕を失いやすく、指示貫徹に焦って、部下を見るより《結果》ばかりを追い掛ける傾向に追い込まれるのでしょう。その焦りが、無理の強要や罵倒を生み、パワハラ問題が持ち上がって、職場の信頼関係が《負のスパイラル》に陥ってしまうのかも知れません。
その結果は、部下にも上司にも、そして会社にとっても、全く好ましいものではありません。

10.管理者層にも無理は強要できない

しかし多忙な管理者やリーダー層に、《①関心》《②部下の強みと未熟点の把握》《③肯定的な指導》という課題を求めることはできるのでしょうか。それ以前に、求める機会や時間を持てるのでしょうか。
その経営者は、管理者層にも『経営陣が自分達の努力や苦労を理解し、それを支えてくれる』という信頼関係を形成する機会が必要だと感じ始めました。
そして改めて『かつて提案を受けた《人事考課者研修》の目的を思い出した』と言われるのです。

11.現場担当者と管理者と経営陣と…

人事考課は、上司が部下の働き方や能力に《深い関心》を抱く絶好の機会です。しかも、その評価を部下にフィードバックする時、《お互いの理解不足点》を知る好機にもなり得ます。人事考課を、単純に《処遇査定》の目的だけで捉えず、『信頼関係の端緒となるコミュニケーションを開く場』にして行くべきだということです。
そして、そうした《学びの時間》を持つことで、今度は、経営陣が管理者層の担う重荷を共有しようとしていることが伝わるなら、それは単にパワハラ防止に役に立つばかりではなく、経営陣と管理者層の間の信頼関係の基礎となって、組織が持つ《良い面》を更に強化するチャンスにもなってくれそうなのです。

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