中堅中小企業経営と人事労務課題の新関係

新関係の下で急増する旧来経営の見直し策
経営者が、経営の重要課題として人事労務をテーマにする時は、いったい何を考えているでしょうか。そして、昨今の《激流》とも言える新たな流れの中で、《考えるべき方向性》が大きく変わったことに気付いていると言えるでしょうか。改めて観察する必要がありそうです。

(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)

1.なぜビジネスは組織で動くのか?

いったい《なぜ組織を持つ》のでしょう。そして《どのように組織を運営できる》のでしょうか。そんな、ある意味で茫洋として《根源的な問い》からスタートすることが、今日、人事労務課題を捉える上で、大きな役割を持つようになったと言えそうなのです。

なぜなら、私たちが歴史的に《当然》と捉えて来たこと、つまり《一定の目的を実現する》ために組織を持ち、その組織の《上意下達型運営》が組織マネジメントだという視点が、最近《大きく揺らいで》来ているからです。

2.目的実現のために現場を鍛える?

たとえば商品力や業務生産性を強化するために、組織員を《鍛錬》するという発想は、今までなら常識だったはずです。それは、システム化された現代的な企業でも、いわゆる職人集団的企業でも同様だったに違いありません。

その《鍛錬法》は、上からの命令に《アメとムチ》で従わせるという発想の下に、諸制度や諸規則という《処方箋的》手法として発達してきました。ところが今、その《処方箋》に、経営者は次々に失望しているようなのです。今や《笛吹けど踊らず》どころか、経営者に『どの笛をいつ吹くか』という迷いすら大きくなって来ているからです。

3.迷わずに済んだ組織マネジメント

もしそうなら、経営者は『なぜこんなことになったか』と、それぞれの事情の中で、改めて考えてみるべきでしょう。すると、一旦止まった《潮流》が逆向きに流れ始めたことに気付きやすくなります。

以前は、国内外に競争すべきライバルらしき存在がありました。そればかりか、社外から様々な《経営手法》が紹介されました。商品力や生産力や販売力の向上には、確かな《お手本》があるようにも思えたのです。

そのため経営者は、お手本を指さして、従業員を叱咤激励することに、深い疑問や疑念を抱く必要がなかったはずです。

4.お手本が不在の時に見るべき対象

自社の組織経営のヒントになり得るようなライバルやお手本が、社外では見つかりにくくなると、経営者は《社内の実情》に目を向けざるを得なくなります。製造現場は何故《不良率》を下げられないのでしょうか。営業現場では、具体的に《どんな障壁》が立ちはだかっているのでしょう。

しかし、ただ単に《社内に目を向ける》だけでは、何も見えないことの方が多いかも知れません。

5.ある注文住宅メーカーの《事例》

ある中堅住宅メーカーでは、複数の部屋の空調を実現する《全館空調システム》を売りにしていました。しかも、ソーラー発電と蓄電池を組み合わせることで、電気代負担を大きく軽減できます。

ところが、その空調システムには苦情が絶えないのです。なぜなら、《空調ダクトにカビが生える》からです。しかも、ダクトは設計時に建物の中に組み込んでいるため、《カビ退治掃除》もままなりません。

6.顧客から立案された具体的な対策

そんな中で、ある顧客から、『ダクトの材質と形状と長さに問題がある』という具体的指摘が出て来ました。それを受けたのは、その企業の修繕担当者です。ダクトに折り曲げるためのジャバラがあるため、ジャバラとダクトのカーブで『空気の摩擦抵抗が高まる』と、その顧客は指摘します。

修繕担当者には、最初『何のことか分からなかった』そうです。しかし顧客は、『空気の摩擦抵抗が大きい所には埃が溜まり、その埃に湿気が溜まり、そこにカビが生える』と、丁寧に説明してくれました。

7.清掃法から設計施工上の話へ発展

更に顧客は、カビが生えたダクトの清掃法から、『空調機の本体を家の中心に置き、そこからペチカのように各部屋に空調ダクトを通すと、ダクトの折り曲げと長さが小さくなるため、空気への抵抗は下げられる』という設計施工上の指摘までして来たのです。

ところが、その住宅メーカーには、修繕担当者の報告を《真摯に聞く》仕組みがありません。それどころか、組織上の地位が低い修繕担当者の提言を鼻で笑うのです。その発言元である顧客にも、『うちは空調機メーカーのマニュアル通りに仕事をしている。お申し出には対応できない』という趣旨以上のコメントがないのです。

呆れた顧客は、さっさと別の業者を探し、ダクトを清掃してしまいました。まだネット上で商品の持つ欠陥が暴露されていないのが、当メーカーの《救い》かも知れません。

8.もし対応活動の上と下が逆なら?

もしも、このメーカーの組織上の上下関係が逆なら、つまり《既存客と接する修繕担当が業務改善のトップ》に立ち、その改善業務に関する限り、設計や施工あるいは営業担当等に《依頼》や《指示》が出せるなら、業務改善は一気に進んだ可能性があります。

住宅メーカーが組織として動いたなら、その内容に合わせて、空調メーカーも何某かの検討や研究を始めたかも知れません。ところが今、大企業の下に中堅中小企業があり、その中堅中小企業内で、自社商品の《現実》に接する修繕員は《末席》に置かれているのです。その《末席》の先に《顧客》がいます。

9.情報社会がもたらす上下逆転現象

ここまで情報化が進み、Web上で、様々な実態が晒されるようになった今日、その情報発信源としての顧客と接する《末席》がリーダーシップを取るべき案件は急増していると言えるはずです。

そうした状態を放置していると、いずれ企業は、アップサイドダウン(上意下達構造の逆転)なしには、市場の動向について行けなくなるでしょう。そのことに元請け企業が気付くと、下請けに《モノが言える企業》を選ぶようにもなるはずです。

まだ《革命の勃発》機運は感じられませんが、ハラスメントへの抗議行動は、その前兆の一つだと言っても過言ではないはずなのです。

10.急進的な方法の前に取り組むこと

もちろん先生方に、その《革命を扇動せよ》と申し上げているわけではありません。ただ、もはや『上の見識を下に押し付けるのではなく、下の情報が上に着実に届く体制が重要になった』と捉えるだけで、組織分掌の見直し、人事考課の内容や実施法、管理者の登用法や管理職層の教育法、部課単位の活動から組織内の横の連携(組織横断プロジェクト)運営法のルール化等、見直すべき項目がたくさん出て来ると申し上げたいわけです。

11.企業が置かれた状況に寄り添う?

しかも、単にハラスメント防止を進めるだけではなく、かつて学校内で先生が生徒から《攻撃》を受けたように、管理者や経営者が《逆ハラ》の対象にならないように支援する発想を持つなら、それこそ、社会保険労務士事務所は経営者にも従業員にも、そして組織経営にも《寄り添う》存在として、更なる進化を遂げられると申し上げたいわけです。

ただしその起点としては、いきなりの提案よりも《経営者の勉強会》《管理者研修》等の研修や、マネジメント情報発信から、コツコツと始めるべきだと思います。急がば回れが原則です。

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