ある経営者に『今後の変化の中で《どう》したいですか?』と聞いたことがありました。すると、その経営者は《間髪を入れず》に、『儲けたいですね』と答えたのです。ただ、そう答える経営者の《心の底》には、中堅中小企業経営の《歴史》のようなものを感じさせられるのです…。

1.経営者の《心の底》を覗いてみると…

『どうしたいか』という問いに『儲けたい』と答えるのは、控え目に見ても《お手上げ》状態を意味するのではないかと思います。《儲ける》のは《行動の結果》生じるものであり、質問の意図は期待する《結果》ではなくその《行動》の方向性を問うことにあるからです。
ただ確かに、これまでの経営は《良い結果が出る》対象や方向性を探し出して、そこに集中するものだったとは言えそうなのです。もちろんそれ自体は、以前なら好ましい経営姿勢だったはずです。

2.昔の遺産から抜け出せない経営者心理

どうすれば儲けられるか、あるいは生き延びられるかという《答》を、市場や業界の動向、あるいは公的な政策の中から探し出し、その動向や政策に掲げられた方向性に特化する…、それは昭和の《護送船団方式》の産業育成策の名残りかも知れません。
つまり、多くの経営者は今もなお《答=経営の正解》を探して、鵜の目鷹の目になっているわけです。しかし残念ながら、市場にも業界にも国の政策にも、もはや《答=経営の方向性》は見つけ出せそうにないのです。市場も業界も国も、こう言ってよければ、すっかり《経済的な潜在力》を見失ってしまったからです。

3.答が見つからない中での事業展開は?

ただ《幸い》なことに、中堅中小企業の事業分野は、特殊な例外を除き、決して大きくはありません。狭い分野を対象に《意欲》を出すなら、国際競争力にさらされる大企業とは違って、発想次第でチャンスの芽は見つけやすいはずなのです。
たとえば、フードプロセッサーを大量に生産して売るのは大変でも、《フードプロセッサーで内臓が元気になる野菜セット》なら企画できるはずだからです。『そんなことをして儲かるの?』と問われるなら、『やってみなければ分からないし、今は《誰かの真似》で生き残れる時代ではない』と捉えるべきでしょう。

4.自社にできることを選択肢にして提示

野菜セットの企画のような方向性を《一口に語る》なら、それは『何を食べれば元気になれるかに迷う消費者に、1つの選択肢を提供する』ことを意味します。売れるものを作る(仕入れる、サービスする)のではなく、自社にできることを《選択肢》として提供するわけです。
冒頭の『どうしたいですか?』という質問は、『迷える消費者や取引先に《選択肢》として提案できる何かを持っていますか?』と聞くべきだったかも知れません。

5.社会保険労務士ビジネスにも言える?

同じことが、今社会保険労務士ビジネスにも言えるかも知れません。なぜなら、特に組織マネジメントに関して、『今後、どう組織を率いて行けば良いのか分からない』と言う経営者が《激増》しているからです。既に2000年代から、社内トラブルや転職の増加等で《従来の経営に行き詰まり感》が出ていた中で、2020年前後の働き方改革やハラスメント対策等が法制化され、従業員への接し方に戸惑いを見せる傾向が、経営者や経営幹部に出ているからです。
それに今後は、高年齢者雇用安定法で、高齢者への対処上での迷いが加わるはずです。

6.経営支援等の選択肢を企業に提示する

そのため、中堅中小企業が《迷えるユーザー》に《自社に出来る選択肢》を提示するように、社会保険労務士事務所も、企業の経営陣に《自事務所にできる経営支援の選択肢》を提示すべき環境に来ていると言えるはずなのです。
『何を提示すれば受け入れられるか』と、企業の経営陣の様子をうかがう前に、給与制度改革であれ、内規の提案であれ昇給昇格や管理者登用制度であれ、新規採用の支援であれ、安全衛生管理であれ、まずは《自事務所が得意とする経営支援の選択肢》を提示することが《求められる》ということです。

7.成果等を期待する前に起こすべき行動

その《選択肢提示》から、契約が生まれるかどうかは分かりません。契約ができたとしても、その支援が相手企業に必ず効果をもたらすとは言い切れないかも知れません。その意味では、先行きが約束されたものは何もないかも知れないのです。
しかし、今まででも《先行きが約束されたもの》等なかったでしょう。《あった》のは、ただ『これがトレンドだ』『これが企業ニーズだ』というスローガン的な、一種の幻想だけだったかも知れないのです。
つまり、今《変わらなければならない》としたら、《先行きの成果を約束されていると感じる》ものを顧客や取引先から探すのではなく、《自事務所にできること》や《自事務所がしたいこと》を探して、それを《選択肢の形で提示・提案する》ことへの活動転換ではないかということなのです。

8.自事務所にできることを提案に高める

一時《自分探しの旅》が流行しましたが、その内容レベルの話は別としても、自分の内面、つまり《自事務所にできること》《自事務所が得意とすること》を明確に意識し直し、それを《提案レベル》にまで磨き上げること以外に、方向性のヒントらしきものはないとも言えそうなのです。
ただ、先生方の《できることの選択肢提示的な提案》は、その選択肢自体のみならず、その姿勢が中堅中小企業にも伝搬し始めるなら、《できることの連鎖》という新しい波がうねり始めるかも知れません。たとえ最初の波は小さくても…。

事務局からのお知らせ

執筆者から、上記のような指摘を受け、KIZUKIサイトを全面的に見直すことに致しました。サイトの内容ばかりではなく、講座やツールの大幅なリニューアルも行い、皆様がサイト内に《マイページ》を持ち、講座等をダウンロードできる仕組みも作成しています。
2月上旬頃に改めてご案内いたします。