《労務相談》は、英語にすると《Labor Consultation:レイバー・コンサルテーション》となり、コンサルティングの重要な一局面だということになります。では、労務相談の《どこ》が《どのように》コンサルティングの局面なのでしょうか。そして、それは顧問料収入以上の《ビジネスの素》になるのでしょうか。

1.コンサルティングの中の労務相談の役割

経営コンサルティングは《営業》から始まるとか、経営コンサルティングは《営業そのものだ》という言い方がされることがあります。営業力がなければ、得体の知れない《コンサルティング》に《前金》を支払うクライアントはいないということでしょうか。
しかし、この《コンサルティング=営業》という言い回しには、もう少し《奥の深い》部分があるとも言えそうなのです。そして、その《奥》を覗くと、労務相談が持つコンサルティングの全体的な流れに於ける役割が明確に見えて来ます。

2.金融機関内等で担当する《無料相談員》

組織的なバックアップのないコンサルタントは、たとえば金融機関の《無料相談窓口》で相談受付業務を引き受けることが少なくありません。もちろん、金融機関に相談を任せられるまでが一苦労ですが、その苦労は《無料相談》受付後も続きます。無料相談と言っても、内容は《経営》に関わる難しいテーマが多いからです。
しかしそんな中で、経営コンサルタントは少しずつ《チャンスの芽》を広げて行きます。たとえば、金融機関から資金貸付先のコンサルティングを《打診》されるケースが出て来るからです。あるいは、名刺交換をした企業の経営者や幹部から、直接《打診》を受けるケースも出始めます。

3.いきなりコンサルティングを提案しない

そして《その時》が、コンサルティングの最大の《山場》になります。もちろん、それは有料契約が取れるかどうかの分岐点だからと言うだけではありません。そもそも《明確な形》のないコンサルティングでは、費用を支払う《対価=成果物》が明確ではないため、打診を受けてもコンサルティングが始まるとは限らないからです。
そのため、コンサルタントは《いきなりコンサルティング提案をしない》ケースの方が多いのです。

4.各相談には答ではなくオファーを返す!

たとえば、経営者から『従業員の定着率が、最近急速に落ちた』という悩みを持ち掛けられたとします。その時、コンサルタントは《回答》ではなく、一つのオファー(申し出)を行うのです。
それは、『ああ、そうですか。一度、その状況や原因を詳しく調べる必要がありそうですね』という問題把握(診断)のオファーです。もちろん、決まり切った《手法》を提供するコンサルタントは、その時既に『提供する支援内容』は決まっているでしょうが、多くの場合《診断のオファー》を出した時点では、コンサルタントの頭の中には、まだ《答》がないのが普通です。
なお、申し上げるまでもなく、たとえば《法律内容や社会保険に関する質問》等の《問い合わせ》は、ここで言う《相談》には含んでいません。即答できる、又は答が明確なはずだからです。

5.経営診断とは《何をどうすること》か?

ただ、経営者は『診断って、何をするの?』と聞く、あるいは感じるでしょう。そのため、『会社の様子を見せていただきながら、主だったメンバーにインタビューをします。また、最近辞めた人の職務や履歴書、あるい業務報告書等を拝見して、問題の傾向を特定します。インタビューは、対象人数次第で、1日か2日で終わりますが、データ分析には、数週間から1ヵ月は必要です』等と、業務内容を細かく説明します。
そして『最終的には、診断書を提出します。これは問題の所在と、今後の対応策を記したもので、診断に掛かる費用は〇〇万円です』と、まず診断を有料化するわけです。

6.問題源の特定でコンサルの内容は定まる

診断を有料化するのは、主として経営者の本気度を確かめるためですが、コンサルティング(問題解決)の半分以上は、問題の特定に依存しているからでもあります。
従業員の定着率が下がったのは、問題ではなく《問題の結果》に過ぎません。そして、問題の結果しか見ないために、解決策を何も思い付けないのです。実際に《現場》を見て、たとえば業務環境が劣悪だったり、管理者のパワハラが問題だったり、採用した人材の職歴と実際業務に不一致があったりという《問題源》が明確になると《それを取り除くことが解決》になり得るため、対策の方向性を明らかにし易いわけです。

7.経営診断書の大まかな内容とその目的は

その後、問題点報告と、それを問題と捉えた背景のデータやインタビュー分析等を提供(①問題源の特定)をした後、解決の方向性(②問題源の解消法や解決手順)を提案します。それが診断書の中核を成す内容です。
その上で、一定の手順に従って問題源の解消を《支援》するなら、『これくらいの期間(あるいは訪問等の頻度)と、解決(問題解消)策提示方法(単なる報告か社内研修等を付加するか)で、いくらの《コンサルティング料》が掛かると提示するのです。

8.経営コンサルティングは《もぐら叩き》

もちろん、診断だけで終わることもありますし、支援法や費用等に係る交渉を受けることもあります。しかし、特定した問題に経営者が納得すれば、経営指導契約は成立する可能性が高いでしょう。
ただ注意すべきは、診断の結論は『こうすれば定着率が上がります』というものではなく、『このような定着率を下げる要因を排除しましょう』という提案だと言うことです。実際問題として、問題は簡単に解決できるものではありません。解決が簡単ではないから問題なのです。
そのため、コンサルティングは《問題解決》ではなく、《問題源の解消をモグラ叩きのように蓄積して行く》活動だとも言えるわけです。

9.問題の《特定と原因排除》が指導の道筋

さて、こんな風にコンサルティングを捉えると、社会保険労務士事務所の《顧問契約》は、既に《診断有料化》の役割を果たしていることが分かります。そして、たとえば『従業員の定着率が高い組織をどう作るか』ではなく、『今、定着率を下げている要因を探し出して、その要因を排除または軽減しよう』と捉えるなら、診断の仕方も、その後のコンサルティングの進め方も、大きく違って来るのではないかと申し上げたいわけです。少なくとも『顧問料の範囲内で無理を言われる』というケースは減るでしょう。
もしも先生が『無理を言われた』と感じられたなら、問題特定作業(診断)の時点から特別有料診断(顧問料外の費用請求)の形をとれば良いからです。数万円+αなら文句を言う経営者は少ないでしょうし、数万円+αで、経営者が診断を断るなら、無理から解放されます。

10.人事労務テーマは今後の企業の最大課題

顧問料を取りながら、コンサルティングのきっかけを掴めるとしたら、社会保険労務士事務所ビジネスは、非常にコンサルティング向きだと言えそうなのです。それは、労務顧問であれ、給与計算代行契約であれ、経営者との関係を継続的に持っているという点では同じでしょう。
ただし、そのためには労務顧問や給与計算代行の《契約》自体が欠かせませんし、その《契約》の前段階で渡す提案書等では、経営者を組織マネジメントに向けて動機付ける内容や、先生方がお受けになる経営労務相談や《その対応》イメージを、経営者に明確に伝えておくことが必須になります。
既契約先にも、改めて《初期提案書》に記すような《話》をする機会を持つ必要があるのはそのためです。そして、社会保険労務士事務所のコンサルティングを話題にするのは、今後の中堅中小企業経営の中で、人事労務テーマは最大の経営課題であり続けると言えるからです。

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