人事労務に関わるテーマは、たとえば《給与体系の一部変更》のようなピンポイント課題でも、長期的スタンスが求められるという印象を否めません。事実、そうなのですが、それが『今、目先のことで精一杯だから』という言葉で《検討回避》されているとしたら、考えておくべきことがありそうなのです。

1.《目先のこと》って、そもそも何?

『目先のことで精一杯で、長期的な課題に意識が向かない』と言われると、確かに《もっともらしさ》を感じてしまいます。しかし、そもそも《目先だけの課題》って何なのでしょうか。
たとえば、朝起きた時《着る服を選ぶ》のは、確かに《目先》のことでしょう。しかしその時、適切な服を選び損なうと、その日一日、ずっと寒かったり暑かったりするのです。

2.目先の判断が先行きを決めてしまう

その日だけの問題に限らず、大切な人に《悪印象》を与えるような服を着てしまうと、その後の《関係》にヒビが入りかねません。朝の《刹那的時間》の中で、適切な服を選べば、その日一日快適で、しかも大切な人との長期的な関係を、今日、構築するチャンスに恵まれ得るのです。
それ以前に、一日の《気分》が変わって、行動が創造的になるなら、もしかしたら《今日の前向き活動》が、今後の行く末を、良い意味で決めてしまうかも知れません。

3.表現に隠された経営者の本音を探す

そんな風に捉えると、そもそも《目先だけの課題》というのは、とても少ない気がして来ます。逆に、どんな小さな判断も、先行きに想像以上の影響を与える可能性が強いからです。では、なぜ『目先で精一杯…』と私たちは言うのでしょうか。
その背景には、2つの要因があると思います。その第1は、たとえば『給与体系の変更は、わが社の今の困った状況を改善しない』あるいは『改善できるイメージが持てない』という感覚です。つまり『今は、それどころじゃない』ということなのでしょう。

4.会社の現状に理解を示すことが重要

そして2つ目の要因は、その『今それどころじゃない』という思いの中にあります。それは、やや乱暴な言葉で表現すると、『あなたは今の私の状況を分かっているのか』という、半ば怒りのような感情でしょう。
つまり、『直面してしまった問題に四苦八苦しているのに、《あさっての問題》を付け加えないでくれ』という悲鳴のようなものです。
そのため、1つ目の要因も、2つ目の要因でも、その対処法は同じはずなのです。

5.徹底的に話を聞く時から始まる提案

その対処法とは、まず《相手の困りごとを徹底的に聞く》ことだからです。『余計な話を聞いて、できないことを相談されたらどうしよう』等と消極的には捉えず、たとえそれが愚痴に聞こえても、関心を持って、可能なら敬意を持って話を聞くことが、実は《提案》の第一歩なのです。
ただし、話を聞いた後で急いで提案すると、『給与のレベルに不満を持たれているのに、体系見直しなど無意味だ』という話になるかも知れません。その時、『それは、どんな不満なのですか』等と聞きながら、現状の給与を見せてもらいます。給与計算代行をしているなら、見せてもらうまでもないでしょう。

6.ちょっとした突破口を見つけよう!

すると、たとえば『随分と、通勤手当の額が大きいですね』等という改善可能点が見つかるかも知れません。『皆さん、遠方にお住まいなのですね』ということです。そして、そんな時『似た金額を支払うなら、住宅手当の方がよいのではないでしょうか』という提言ができそうな雰囲気にもなり得るはずです。
従業員によっても、通勤手当の上限が決まれば、会社の近隣に住みたくなるでしょうし、住宅費用のアップを住宅手当でカバーできるなら、生活自体を《改革》できるかも知れません。
どんなに交通費を会社負担にしていても、長時間通勤が従業員の快適時間になっているはずがありません。会社は、そんなもののために手当を出してしまっているかも知れないのです。

7.先行きを定め得るのは《今》だけ?

給与への不満は、そんな小さな不快感の積み重ね、あるいは寄せ集めが影響しているのかも知れません。本当に高給が欲しいなら、従業員にも、それなりの《貢献覚悟》が求められますし、場合によっては《転職覚悟》も必要になります。
逆に、小さな不満を一つずつ解いて行けば、案外不満の種も減るかも知れないのです。そして、重要なことは、そんな決定ができるのは《今》だということです。目先は長期を決めてしまうため、今検討しなければ、この先長く何も変えることができなくなるわけです。

8.目先の課題への意味のある取り組み

そのため、目先の問題解決こそが、経営の最重要課題だと言えるのです。ただし、その決定の影響は、今後長く続く可能性が強いので《適切な解決》でなければなりません。そこに、社外専門機関が《検討支援》を行う意義が出て来ます。こうして、具体的な提案が始まるのです。
もちろん話を詳しく聞いても、困りごとの全てを一気に解決することは不可能でしょう。しかし、話の中で『これなら解決できる』というテーマに出合えるものです。そんな風にゆったりと構えてみるのです。

つまり提案は、提案テーマありきではなく、まず《①現状の問題を共有》し、《②その中に先生方の見識が解決できる課題》を見つけ出し、《③その課題解決で何がどう変わるかの認識》を共有し、《④その実現のための段取りと費用を提示》する形で進むと言うべきなのでしょう。決して『目先しか見ない、意識の低い経営者には、何も提案できない』というわけではないのです。

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