あくまで一般論ですが、専門見識者は営業に苦手意識を持ち、営業者には専門見識が不足しているというケースが少なくありません。その状態は果たして、顧客である《経営者》のメリットになっているでしょうか。そして、顧客は今、何を求めているのでしょうか。

1.突然に《複雑化》してしまった人事労務の課題

もし、社会保険労務士事務所の仕事が《手続き業務》だけであったなら、社労士業務の見識を持たない人でも営業代行が容易でしょう。代行営業者は、信頼できる先生を《紹介》すれば責任を果たせますし、経営者は、価格比較はするかも知れませんが、『お任せします』とお願いすれば良いからです。
ところが、たとえば給与計算代行のような案件では、営業代行のみならず《紹介》でも、一気に容易ではなくなります。営業代行者や紹介者が、少しでも『給与って何?』と考え始めると、それだけで『自分は立ち入らない方がよい』とさえ思えて来るからです。

2.従来何でもなかったことを今では決め切れない

極端なケースでは、『お任せします』とお願いした経営者も、『社長、諸手当に関する社内規程はどこですか?』と先生に聞かれるだけで、びっくりするかも知れません。更に、『規程の内容を見直した方が良い』と指摘されると、『そんな暇があったら、少しでも稼ぎたい』という気分になる経営者も多いでしょう。
かつてのように、号令一下で《稼ぐ活動》にストレートにまい進できた頃は、経営者にとって社外の専門家は、『事業に関わりの薄いことで、あれこれ経営を批判する面倒な存在』であったかも知れないのです。

3.従業員の意識や法律の激変に戸惑う経営者の姿

そのため、たとえば先生の言う通りに就業規則を見直して届出を済ませたら、経営者は『ああ、終わった終わった』とばかりに安堵して、その《就業規則》を自分の机の引き出しにしまい込んだりしてしまうのでしょう。規則が、組織経営や新規採用に役立ち、従業員の迷いを軽減し、やる気を保たせたり引き出したりすることで、自社の業績獲得に繋がっているとは感じられなかったのです。
しかし今は、そうではありません。従業員が思い通りに動いてくれないことが、業績の足を引っ張っているのは、目に見えることだからです。
ややデフォルメした言い方ではありますが、従業員意識や法律が激変して行く中で、多くの経営者が、今になって戸惑いを感じ始めてしまうのは当然かも知れないのです。
ただ、それは《どんな戸惑い》なのでしょうか。もう少し掘り下げる必要がありそうです。

4.経営者への忖度も《世間並》意識もなくなった

人事労務の諸手続きは、こう言ってよければ《形の上だけのもの》に見えます。就業規則は、経営者感覚では《お役所が求める形式》という域を出なかったかも知れません。給与の水準や諸手当も《世間並》と思えるなら、それで経営者自身納得できましたし、従業員への説得も難しくはないと思えたでしょう。
ところが、様々な会社の事情が、様々な情報発信源からネット公開されるようになると、そもそも《世間並》など存在しないことが分かって来ます。給与の決定には、もっと説得力を持つ《自社としての考え方》が必要なのだと、程度の差こそあれ、気付く経営者が増えて来るのです。

5.行き詰まり感が人事労務の重要性に気付かせる

更に経営者の中には、就業規則は労働条件を定めるものに留まっており、組織を円滑に動かすために、もっとダイナミックな《社内だけの決め事》が必要だと思い始める人が出て来ます。そして従業員が《尊重》して《遵守》できる決め事を明確化して行かないと、従業員の動きが鈍くなるとも感じ取るでしょう。
経営者の目の前で、従業員が様々なチャンスを取り逃がし、管理者やリーダーとぶつかって、問題ばかりを増やしてしまい、その結果は業績にマイナスとして反映されます。『かつて業績が良かったのは、従業員が頑張ってくれていたからなのだ』という思いを、噛みしめている経営者も少なくないはずです。

6.どうすべきかに迷うと前に進めなくなるから…

そんな時に経営者が求めるのは、人事労務の事務支援よりも、むしろ『今後私はどうすべきか』という《考え方》なのではないでしょうか。今、組織運営のために、経営者は《何》に《どう》取り組むべきなのでしょうか。それは、既に営業目線ではなく、専門者目線で行うべきアプローチなのです。
次々に生まれる、人事労務関連の法律や制度は、経営に有害なのでしょうか。それとも《経営=業績獲得活動》に役立つものなのでしょうか。役立つとしたら、それは《どのように》役立つのでしょう。
そんな話は《営業者》からは聞けません。そして、ただ《サービスメニューと価格を提示するだけの社会保険労務士事務所》からも聞けないかも知れないのです。

7.人事労務の支援内容の前に提示すべきものは?

そのため、今日の《組織経営の支援提案》では、《何をするか》より一歩前に《どういう方向に進むかという考え方》の提示が欠かせなくなっています。しかも、その《考え方の提示》が、その後の支援や指導を実践できる専門者から聞けるなら、『多少分からないことが残っても、取り組んでみよう』と思える経営者が増えるはずなのです。
今、専門者である先生方が経営者に《提示》すべき《提案》は、自事務所のサービスメニューのみではなく、『それが組織経営をこんな風に活性化する』という《経営目線での指摘》だと言えるわけです。

8.煩雑な仕事を増やすよりも今重要視すべきこと

『いや、そこまで行かなくても、今、社労士業の仕事はたくさんある』と言われるかも知れません。しかし、経営者と《考え方》や《方向性》を共有していない経営サポートは、むしろ煩雑過ぎるのではないでしょうか。いちいち問題が発生し、経営者の協力が得られないまま、調整に奔走しなければならなくなるからです。
それは、社会保険労務士事務所の《ビジネス》にとっても有益ではないでしょうし、経営者の《混迷解消》にも繋がらないと言えるはずです。

9.専門者らしく《共感者》を探す活動の期待成果

今、その意味で、急いで契約に至ろうとはせず、まず《考え方》に共鳴する経営者を探し出して、協調体制のベースを作ろうという《専門者らしい活動》が重要になっていると申し上げられます。一般的な営業者のように《決まった商品を売る》のではなく、専門者らしく《共感ポイント》を探し出す活動が重要だということです。専門者の営業活動は、それ自体がコンサルティングの第一段階だと言えるのです。
もちろんそれは、契約ができなくても構わないと捉えることではありません。むしろ、専門者らしいアプローチの方が、見込み先を見つけ出しやすく、経営の話を出しやすく、好ましい条件での成約の可能性が上がる上に、契約後にも、先生方の支援や指導がしやすくなると申し上げられるのです。

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