制度上の問題や限界がどうであれ、働き方改革は、今後の人口の減少と高齢化の中で、企業を活性化しようとして企図されたものでした。コロナ禍で《それどころではなくなった》側面があるとしても、働き方改革には、近未来に向けた経営の指針があったはずです。今、それを思い出すべき時ではないでしょうか。

1.働き方改革の出鼻をくじいたコロナ流行

2020年春に始まった《コロナ禍》は、2022年の秋でも、まだ完全には収束していません。それどころか、この2年半の経済の委縮は、企業間格差こそあれ、特に中堅中小企業の間で大問題化しています。更に、歴史的な円安が進む中、輸入原材料の高騰によって、電力料を含む企業のコスト負担は、非常に大きなものになって来ているのです。
『円安は輸出増大の好機だ』と言っても、原燃料価格の高騰がここまで深刻化すると、国内企業の輸出競争力が強くなるとも思えません。

2.働き方改革は今はもう《思い出》なのか

そんな中で、働き方改革は、一部の企業や国政の中では《思い出の領域》に入ってしまったのでしょうか。あるいは、もはや働き方の問題を《寝食》とともに忘れ去って、戦後やオイルショックの時のように、経営陣も従業員も《働きバチ》に戻るべき時なのでしょうか。
実際、若年層の価値観や高齢者層の体力と気力等を考慮すると、たとえ経営陣が社内で飴やムチを振るっても、組織力を結集することは不可能でしょう。言葉の選び方が難しいのですが、現代人の多くには《自分の人間らしさを殺してまで働こうとはしない》傾向があるからです。

3.制度の問題指摘より精神を汲んだ取組み

そんな情勢の中で、企業が好ましい労働力を確保し、その士気を高めるためには、働き方改革の《精神》は、むしろ欠かせないものだとは言えないでしょうか。それは、法律や制度があるからではなく、人口の減少と高齢化の下での、経営の工夫を迫るものだからです。
ビジネスに精通しているとは言えない人たちが作る法律には、様々に実践上の問題が出るでしょう。しかし、それを批判していても、ビジネスを担う企業に《得》はありません。法律や制度ではなく、その《精神》を汲んで、実践的な内実を作って行くのは、むしろ企業の役割なのだと思います。
では、その《精神》とは何だったのでしょうか。

4.短期的な無理より大事な持続可能な労働

働き方改革の《第1の精神》は、これも言葉選びに苦慮しますが、《持続可能な労働力の確保》でしょう。『ここを乗り切れば何とかなる』という発想で、一時の無理をして成果を出せるような課題は、人口の減少や高齢化という長期的な課題の中では、逆効果に働きかねないからです。
頑張って一山超えたら、次に見える山はもっと高いのが、長期的な課題の特徴です。そのため、必要な休養をとりながら、過剰なストレスを掛けず、心の持ちようを大事にして、持続的に働ける組織を形成して行かなければなりません。それが有給休暇取得義務や時間外労働の上限規制に現れているのです。

5.働きたくないと思わせない労働環境作り

働き方改革の《第2の精神》は、《若年層に活躍の場を提供すること》に他なりません。将来の日本経済の国際競争力が、若年層の努力に懸かっていることは、考えるまでもないことだからです。
ところが、たとえばまだ《村意識》が残る農村等では、年長者への偏重や男尊女卑の伝統的発想の中で、いわゆる《嫁》が過剰な労働や地域奉仕を求められます。結婚できない若い男性も、それに好感を示せず、農村を離れて行くのです。私たちの食糧源を担う産業は、今瀕死の状態を迎えようとしているようです。
一方、都市部でも、若い男性や女性が働きやすい環境が整っているとは言えず、たとえばコロナ禍で在宅勤務に慣れた働き手に、昔気質の経営層が『顔を見て仕事をしたいから会社に出て来い』と命じたりします。個々の事情も経済社会も、今や《伝統的意識》を克服しなければ、若手を育成できない瀬戸際に来ているかも知れないのです。

6.旧来意識解消のためのハラスメント対策

そうした《古くからの意識》を排するために、働き方改革の本流と並んで《ハラスメント回避》が制度化されました。そこでは、形式的な決まり事の順守を超えて、組織内で《権力》を持つ層の《帝王学的見識》が求められています。
つまり『どうすればハラスメントにならないか』ではなく、『今、若い層と共に働くには、上層部がどんな姿勢で臨まなければならないか』という問題提起です。上層部には留まらない高齢者層への姿勢も同様です。

7.最先端を行く労働力は中小企業でも必要

働き方改革の《第3の精神》は、高度プロフェッショナル制度の創設にような形で表現される《労働力の質の高度化》です。《モノの生産技術》で、20世紀末の日本経済は、世界の頂点に立ったと言われており、それが経済や企業を豊かにしました。しかし、今《IT技術分野》では、日本は先進国の末尾に甘んじているとされるのです。これでは、豊かな将来を夢見ることさえできません。
しかも、システム技術が簡略化され、その気になれば誰でも安価に学べるようになった今日では、『中小企業はシステムとは無縁』とは言えないのです。無料のソフトをダウンロードして、エクセルシートをExcelを購入しないままに作ってしまうことも、今や難しいことではありません。そして思い出すべきは、世界に冠たる《モノ製造技術》の多くは、今もなお中堅中小企業が担っているという現実でしょう。中小企業こそ、自社も他社も豊かにするために、最先端技能者を育成すべきなのです。

8.改めて働き方改革の全貌を見直すべき時

働き方改革の《精神》は、上記の3つに尽きるものではないでしょうが、《①持続的に働ける働き方》《②年齢や性別を問わないチャンスの供与》《③技術や技能の高度化》の3つは、私たちの社会が、少なくとも《暗くはない》将来を迎えるために、必須の要素と言えそうなのです。
そしてそんな観点から、今改めて、社会保険労務士先生方が企業経営者を鼓舞しながら指導すべき時を迎えていると思えてならないのです。しかも、それが奉仕ではなく、たとえば先生方の有料セミナーのような形で始まり、様々な規則や制度の改善や新設等の有料コンサルティングに繋がって行くなら、企業にとっても先生方にとっても、共存共栄の形が作れそうなのです。
その意味で、今、改めて働き方改革の精神や全貌を見直すべき時にあると申し上げたいわけです。

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