たとえば従来は、《三六協定》になど関心を示さなかった経営者に、“あること”を伝えたら、三六協定の捉え方のみならず、働き方改革や人事労務課題に関わる経営者の意識が大きく変わったというケースがあります。
それは企業活動にも士業ビジネスにも、メリットをもたらす方向性ですが、そのきっかけは《ごく普通のこと》でした。

1.それは経営者の《愚痴電話》から始まった…

コロナ禍の下では、一部の企業を除いて、顧客や取引の減少と《従業員の労働時間の削減》がバランスするケースが多かったはずです。しかし今後、業績レベルを取り戻そうとするなら、当然《労働時間の増加》を考えなければなりません。そうなると、経営者は少し不安に感じるものです。
そんな時、ある先生が『労働時間の上限規制は守らなければならないけれど、三六協定で、臨時的なケースでの労働時間の上限を引き上げておくことはできる』と指摘したことがあったそうです。その会話は、“事業持続化給付金”を受け取った後の経営者の《愚痴電話》から始まったのだそうです。

2.人事労務の諸制度に無関心だった経営者が…

その経営者は、従来人事労務制度には無関心だったのでしょう。『三六協定って何?』と聞いてきました。そこで先生は三六協定について、簡単に説明をしました。すると経営者は、『聞いたことはあったけれど、そんな制度だったのか』と今更ながらに感心します。
そこで先生は、『労働時間の上限規制を受けない労働形態もありますよ』と付け加えたのだそうです。
その内容自体は、実は『何度も話したこと』でしたが、その時、初めて経営者のハートに届いたようだったのです。

3.無料の面談を有料案件受注機会に変えたもの

先生は、更に詳しい話をするために《面談のアポ》を取ります。経営者が『一度詳しい話を聞きたい』と言うからです。面談は、流れの中で結果として《無料相談》の形になりました。
しかし先生は決して、『無料相談を受けたら、その後も無料であれこれ依頼されて、振り回される』という心配はしていませんでした。有給休暇を取得させる義務やハラスメント対策の役員会説明等に関して、『もちろんお引き受けします。その方法や内容は〇〇で、その費用は〇〇になります』と《提案する》効果を、既に実感していたからです。

4.経営者に一方的に振り回されなくもなった!

有料提案が合意に至らなければ、見識や業務を提供する必要はありません。経営者も事業者ですから、対価を明確にすると、次に進むかどうかをきちんと検討してくれます。そして、その結果、まずは“働き方改革の内容のおさらいと、今後に残された課題”について、役員会研修を行うことになりました。
資料を提供し、その内容を解説する研修ですから、有料は当然です。

5.大きな社会潮流の中で具体的提案をする効果

その研修での質疑応答から、同一労働同一賃金への対応や、管理者へのハラスメント研修等の案件にも進めそうでした。研修の中で指摘した『“世の中の潮流”に乗ることで、人材の確保や働く動機付けも、今より容易化するはずだ』という話が効いたのでしょうか。
しかし、そもそも経営者からの“愚痴電話”がなければ、こんな展開はなかったでしょう。この時の体験から先生は、『まずは無料相談を積極的に受け付ける』というスタンスを意識されるようになったのだそうです。
今、中堅中小企業も人事労務課題で、大きな“岐路”に立たされていますが、そんな流れや具体的な変化内容を、自社に当てはめて“認知”する機会がなければ、課題に取り組む意味さえ、なかなか実感できないからです。

6.今は企業と士業の健全な関係を形成する好機

大きなテーマを、経営者が自社に当てはめて実感するには、先生からの『御社には、この検討が必要ですね』という《具体的指摘》が欠かせません。つまり、社会的な大きなテーマと自社の問題のリンクが、経営者への意識付け上不可欠で、その機会を《相談受付》で増やすことができるということです。
そして、先生サイドが『頼まれたことは全部しなければならない』とは考えず、『何をどうするかを明確にした上で価格と共に提示する』という《提案姿勢》を堅持すると、発展的な関係が生まれるケースも少なくないのです。
有料提案を受け入れるかどうかは経営者の自由ですが、経営者にも、その提案を無視して、専門機関に無理難題を押し付ける権利はないでしょう。
その意味では、働き方改革やコロナ禍からの回復期は、企業と社会保険労務士事務所の健全な関係を育成する大きなチャンスになるとも言えそうなのです。