企業等の経営者や役員会向けのセミナーやプレゼンでは、極端に言うなら、あまり経営を知らないと思われている士業専門家が、法律や公的制度に関しては興味すら持たない場合が多い経営者層に《話を聞かせる》ことになるケースが、少なからず出て来ます。これがどんなに極端な対比に見えても、この構図を頭に入れておかなければ、せっかくの話が宙に浮いてしまいやすいのです。

1.学校教育とは大きく違うビジネスプレゼン

ビジネス上でも、セミナーは学校の授業を連想させ、マンツーマンのプレゼンは家庭教師を思わせるかも知れません。そのため講師やプレゼン者は、自分の見識や知識を総動員し、誠意をもって《知っている限り》を伝えようとするでしょう。もちろん、その姿勢に問題があるとは言えません。
特に聞き手が法律や制度の詳細を知りたい時、たとえば助成金や補助金の条件等を知りたい時には、学校教育的なセミナーやプレゼンで、話し手にも聞き手にも、自然に熱が入るのが普通だと思います。

2.《教える》発想が有するビジネス上の限界

ところが、労務顧問契約や給与計算代行の提案や、そこから一歩進んで、就業規則を含む社内規程、給与体系や昇給昇格制度、採用促進や人材制度等の話になると、逆に《熱が入りにくい》のが自然になってしまうかも知れません。熱の入り様の違いは、もちろん聞き手の《興味》や《話を聞く目的》の違いにあります。助成金や補助金の話なら、その内容は法律や制度そのものですし、聞き手の目的は《詳細を知る》ことでしょう。まさに学校の授業や家庭教師の場と同じく、聞き手は《専門知識そのもの》を得ようとしているはずなのです。

3.知識提供型の内容では経営に踏み込めない

しかし話題が組織マネジメントの話になると、聞き手である経営者や担当は、『この話し手には専門知識があるかも知れないが、実践的な経営問題には素人ではなかろうか』と感じながら聞き始めることが多いのです。つまり聞き手は、『先生の見識がどうであれ、経営に役立つ話じゃないと聞かないよ』という《気分》になりがちだということです。
そのため、法律や制度の詳細が並ぶレジメを見ると、聞き手は『ああ、今日の話は(経営者である)私が取り組むべきテーマではないな。それでも資料は多い。せっかくだから帰って担当者に読ませてみよう。資料が手に入っただけでもよかったのかな?』とさえ思いかねないわけです。

4.提供した資料への感謝は良好関係とは無縁

ただ《資料が入手できた》という思いは感謝ではありませんし、話し手との距離を縮める思いでもありません。詰まるところ、『自社に帰って担当者に読ませよう』ということですから、そこには《話し手と聞き手との良好な関係》が生じる余地は小さいのです。
しかも、最近では『これならネット検索で手に入る』と思われてしまうかも知れません。まさに『(資料を)ありがとう』という言葉は、『さようなら』を意味しているかも知れないのです。
では、経営者や専任担当者には《どんな話》をすべきなのでしょうか。

5.第1の要点:教えるより問題を考えさせる

セミナーやプレゼンの中で、経営者や専任担当者に認識あるいは再認識させるべきことは、大きく分けて3つあります。その1つ目は《問題の所在》です。
たとえば『今の若い人は、叱るとすぐに辞める』と嘆く経営者や管理者がいたとします。その時、上に立つ人の問題認識は《軟弱な若手の状況》に向けられています。そして、彼らをどう鍛えられるかに関して《答》を欲しているはずなのです。その時、《こうすればよい》《ああすればよい》と話しても、『ああ、この先生は組織の実情を知らない』と感じさせるだけに終わるかも知れません。
実際の《問題》は、そんなところにあるわけではないからです。

6.若い世代はいつも以前の世代よりも合理的

今の若者は以前に比べて合理的になりました。昔の若者が、更に昔の若者よりも合理的だったのと同じです。そして若者は、『実践の中で折に触れて教えられるのは時間のムダではないか。教えるなら最初に一気に教えてくれ』という合理的感覚に陥るかも知れません。ネットから即答を得て育って来た人達には、特にその傾向が顕著でしょう。
そのため、ミスをした時『バカやろう』と叱ると、『前もって教えなかったお前の方がバカだろう』と感じやすいのです。しかも『後から叱るより、前もって教えないなんて、先が読めない人だなあ』とさえ思うかも知れません。だから、叱られると失望して、会社を辞めるのかも知れません。

7.第2の要点:答への予想を裏切るショック

1つ2つの例示でも、『問題の所在が自分の思い描いていたところとは違う』という《ある種のショック》を聞き手に提供した後は、当然の流れとして《ではどうするか》という回答が必要になります。これが、2つ目の要点になります。
ただし、その回答も『だから前もって教育しよう』というものではパワー不足になりかねません。なぜならそれは《問題を聞いているうちに当たり前に連想できる答》だからです。そのため、もう一度《ショック》を与える必要があるのです。

8.伝えるべきは回答よりも取り組みの方向性

その2つ目の《ショック》に関しては、セミナーやプレゼンの中では、回答自体ではなく《取り組みの方向性の提示》で十分だと思います。つまり、たとえば『部下を育てたいなら仕事上でルールを明確にしなければならない』という《姿勢の転換》を示唆するわけです。それは、人が人を指導するのではなく、社内の規定や制度で従業員に《どう働くべきか》の指針を示し、個々の業務上の約束事を命令の代わりにするという考え方です。
事前に必要なのは、《教育》なのではなく、《教えられる立場にある者が学ぶ姿勢を持てる条件作り》だと思い知らせ得ることです。

9.第3の要点:先生方の見識の価値への印象

3つ目の要点は、既にお気付きのこととは思いますが、提示された方向性が話し手、つまり《先生方の専門分野あるいは得意分野》であることです。
ここで聞き手は、先生方の見識に畏敬の念を抱ける地点に到達します。もちろん、皆が皆そうではないでしょうが、畏敬の念を持たれなかったとしても、《先生方の専門性がいかに組織経営の役に立つか》という印象を与えることには失敗していないはずなのです。
3つの要点でセミナーやプレゼンを構成した後は、申し上げるまでもなく《具体的な契約提案》に進むことになります。もちろん契約の話を持ち出さず、《先生方の存在を経営者や専任担当者に印象付ける》ことで、後日の関係形成や提案を容易にしようと考える時にも、セミナーやプレゼンは有効だと思います。
そんな形のセミナーやプレゼンを行うような環境になれば、悩みの多い企業が増える中で、今後の社会保険労務士事務所のビジネス・ポジションは、一層強固なものになって行くと捉えられるのです。

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